愛の音楽家エドワード・エルガー

日本のエルガー受容、新たな一歩

セブンスターオーケストラ第17回記念演奏会
2026年8月2日 文京シビックホール

 

指揮:河上隆介
チェロ:渡邉辰紀(東京フィルハーモニー交響楽団首席チェロ奏者)

 

オール・エルガー・プログラム

 

序曲《コケイン》
チェロ協奏曲
交響曲第1番

 

アンコール

 

《愛の挨拶》
《インドの王冠》より「ムガール皇帝たちの行進曲」

 

 

 

日本のアマチュア・オーケストラによる演奏会で、オール・エルガー・プログラムが実現した。

 

これは決して当たり前のことではない。プロ・オーケストラですら滅多に組まれない内容であり、しかもアンコールまで含めて徹底したオール・エルガーである。アマチュア・オーケストラが選曲を行う際には、団員の意向だけでなく集客や運営面など様々な要素が絡む。その中で、このプログラムが実現した背景には、団内にエルガーを深く愛する人々の熱意と、それを支えた楽団全体の理解があったに違いない。

 

長年、日本におけるエルガー受容の歩みを見続けてきた者として、「ついに日本のアマオケもここまで来たか」という感慨を覚えた。

 

演奏の完成度も極めて高かった。

 

冒頭の《コケイン》では、やや緊張からか硬さも感じられた。冒頭では、本来聴こえないはずの弦のピチカートが耳に入り、一瞬「新しい解釈なのだろうか?」と思わせる場面もありヒヤリとした。しかし演奏が進むにつれ、奏者たちは次第にリラックスし、音楽は温度を増していく。テンポは比較的遅めで、この作品としては珍しい部類に入るだろう。しかし、その落ち着いた歩みが作品の構築感を際立たせ、オーケストラも着実に音楽を積み上げていった。

 

チェロ協奏曲では、独奏の渡邉辰紀とオーケストラが互いの呼吸を探り合うように始まる。序盤は慎重な印象もあったが、楽章が進むにつれて両者の一体感が増し、作品が持つ深い叙情が自然に引き出されていく。渡邉のチェロは美しい歌心と豊かな表現力を備え、エルガー晩年の内面的な世界を誠実に描き出していた。

 

そして、この日の白眉はやはり交響曲第1番である。

 

冒頭のモットー主題は堂々として気品に満ち、作品全体を貫く精神的支柱として確かな存在感を示した。第2楽章では、まるでエルガーの故郷モールヴァン丘陵を吹き抜ける風のような爽快さがあり、第3楽章では伸びやかで温かな歌が会場を包み込む。終楽章では、長い旅路を経て再び姿を現すモットー主題が雄大に響き渡り、全曲を見事に締めくくった。どの場面からも、演奏者たちのエルガーへの深い共感と愛情が伝わってくる演奏だった。

 

そして驚かされたのがアンコールである。

 

休憩前には《愛の挨拶》に続いて演奏されたのであるが、最後のアンコール曲は《インドの王冠》より「ムガール皇帝たちの行進曲」。この選曲には心底驚いた。決して一般的なレパートリーではなく、日本初演である可能性も極めて高い。まさかこの作品を実演で耳にする日が来るとは思ってもみなかった。この一曲だけでも、この演奏会には歴史的な価値があったと言える。

 

エルガーが日本で演奏され始めて長い年月が経つ。しかし、ここまで徹底したオール・エルガー・プログラムがアマチュア・オーケストラによって実現したことは、日本におけるエルガー受容が新たな段階へ進んだことを象徴する出来事であった。

 

来週は尾高忠明指揮による《エニグマ変奏曲》を聴きに行く予定である。その折には、ぜひ今日の演奏会のことを尾高氏にも伝えたい。長年、日本でエルガーの普及に尽力してきた尾高氏なら、この快挙をきっと心から喜んでくれるに違いない。

 

日本エルガー協会新刊「エルガーの最後の審判-語られなかった真の作曲家像」はこちらから

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