愛の音楽家エドワード・エルガー

エルガーを「語らせる」指揮者グローヴス

チャールズ・グローヴス(Sir Charles Groves, 1915年3月10日 – 1992年6月20日)は、20世紀イギリスにおける最も「イギリス的な」指揮者の一人として知られ、その誠実かつ深い音楽解釈で、英国音楽の復権と普及に大きな足跡を残した人物である。

 

■ 経歴概要

1915年ロンドン生まれ。ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックでピアノとオルガンを学び、1938年に指揮者としてデビュー。
第二次大戦中も演奏活動を継続し、1944年にはBBCノーザン交響楽団の首席指揮者に就任。以降、1961年にウェールズ・ナショナル・オペラ音楽監督、1963年にはロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者となる。

 

1977年からはイングリッシュ・ナショナル・オペラの音楽監督に就任したが、健康上の理由から辞任。以降はフリーとしてBBC交響楽団、ロンドン・フィルなどを客演しつつ、晩年まで英国音楽の伝道者として活動を続けた。

 

■ エルガー指揮者としての功績

グローヴスはエルガーの作品を体系的に録音・演奏し、特に声楽・合唱作品を積極的に取り上げた稀有な存在である。

 

◆ 声楽・合唱作品の積極的な紹介

《ブラックナイト》(ロイヤル・リヴァプール・フィル)

 

《生命の光》(ロイヤル・リヴァプール・フィル)

 

《雪》(ロイヤル・リヴァプール・フィル)

 

これらはエルガーの作品群の中でも取り上げられる機会が少ないが、グローヴスはそれらを丁寧に掘り起こし、エルガーの「合唱作曲家」としての側面を世に問うた。

 

◆ 管弦楽・協奏作品

ヴァイオリン協奏曲(ソリスト:ヒュー・ビーン、ロイヤル・リヴァプール管)

 

チェロ協奏曲(ソリスト:パウル・トルトゥリエ、ロイヤル・リヴァプール管/ミリスラフ・ロストロポーヴィチ門下のネルソヴァ、BBC響)

 

威風堂々全曲・戴冠式行進曲・インペリアルマーチ・カラクタクス凱旋行進曲など、行進曲全般(ロイヤル・リヴァプール管)

 

これらは祝祭的でありながらも、グローヴスらしい温かみと自然な呼吸感に満ちており、過度に派手にならない良識あるエルガー像を提供している。

 

◆ 小品の美質を引き出す手腕

《朝の歌》(イングリッシュ・シンフォニア)

 

《愛の挨拶》(ロイヤル・リヴァプール管)

 

特に《愛の挨拶》の演奏には、愛情が自然ににじみ出るような温もりがあり、これは録音を通じても心にじんわりと染み入るような名演として記憶される。

 

■ 他のエルガー録音(オーケストラ曲)
《コケイン》序曲(In London Town)

 

《フロワサール》

 

《ファルスタッフ》

 

《グラニアとディアルミド》間奏曲

 

《インドの王冠》行進曲

 

《子ども部屋(The Nursery Suite)》

 

これらの録音からは、単なる愛国主義的記号ではなく、エルガーの中のリリシズムと語り口の巧みさを尊重した演奏解釈が貫かれており、グローヴスの「誠実な職人気質」が滲み出ている。

 

■ 総括:エルガーを「語らせる」指揮者

チャールズ・グローヴスのエルガーは、派手さやスケールの大きさよりも、内面の情緒や静かな誇りを大切にした音楽作りが特徴である。他の指揮者が取り上げることの少ない声楽作品や小品に光を当て、エルガーという作曲家の立体性と幅の広さを示してくれた。

 

とりわけ《ブラックナイト》《生命の光》《雪》のような作品を記録に残した功績は大きく、録音や映像の少ないこの領域において、彼の演奏は今なお決定的な価値を持つ。

 

派手ではないが、「エルガーに語らせる」ことができた数少ない英国の良心的指揮者、それがチャールズ・グローヴスである。

 

 

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