E minor と A minor ――最後の暗号
ブリンクウェルズで生まれたいわゆる「ウッド・マジック」の作品群は、エルガー晩年の創作のなかでも特別な位置を占めている。その特徴は、作品の精神的統一だけでなく、調性の配置にも象徴的な秩序が見られる点にある。
ヴァイオリン・ソナタ――E minor
弦楽四重奏曲――E minor
チェロ協奏曲――E minor
これら三つの主要作品はいずれも E minor を主調としている。
そしてただ一つ、
ピアノ五重奏曲のみが――A minor
という異なる調性を持っている。
この配置は偶然とは考えにくい。エルガーは象徴的な仕掛けや暗号的な遊びを好んだ作曲家であり、《エニグマ変奏曲》に見られるように、音楽の中に個人的意味を忍ばせることをしばしば行っていた。
ここで思い出されるのが、彼の最も大切な理解者であった妻、アリス・エルガーである。
アリスはこれらブリンクウェルズの作品を特に愛し、とりわけ《ピアノ五重奏曲》を深く大切にしていたという。
もし調性を象徴として読むならば、
E minor ―― Elgar、すなわちエドワード。
A minor ―― Alice、すなわちアリス。
という連想が自然に浮かび上がる。
三つの作品が E minor に置かれ、最後に A minor が現れる。
それはあたかも、作曲家自身から妻へと音楽が手渡されていくような配置である。
E から A へ――。
そこには、言葉にされることのなかった私的な象徴、あるいは二人だけに理解できる暗号めいた意味が込められていた可能性がある。
エルガーの音楽において、こうした個人的象徴が忍び込むことは決して珍しいことではない。
とりわけ《ピアノ五重奏曲》は、神秘的で内省的な響きを持つ作品であり、深い森の静寂のなかで交わされるような、親密で内向的な対話の雰囲気を漂わせている。もしこの作品が A minor という調性によって「アリス」を象徴しているのだとすれば、それは単なる室内楽作品を超えた意味を帯びることになる。
それは、夫婦の魂が交わした沈黙の対話の記録であり、エルガーからアリスへ贈られた音楽的な献花であったのかもしれない。
やがてアリスの死は、エドワード・エルガーの創作に決定的な断絶をもたらす。
彼女は単なる妻ではなく、精神的支柱であり、創作の最も深い理解者であった。彼女を失った後、エルガーが大規模な作品をほとんど書かなくなったことはよく知られている。
ブリンクウェルズで生まれたこれらの作品は、結果的に、二人が分かち合った最後の創作の季節を刻むものとなった。
その調性の配置の奥には、表面には現れない、しかし確かに存在する夫婦の精神的結びつきが、静かに刻み込まれているのかもしれない。



