アンドリュー・マンゼの2番
🎼 Edward Elgar – Symphony No. 2 in E♭ major, Op. 63Andrew Manze / NDR Radiophilharmonie (2024年1月18日, Hannover)
アンドリュー・マンゼ指揮、NDRラジオ・フィルハーモニー管による2024年1月18日のエルガー交響曲第2番(ハノーファー、NDR大ホール)の演奏は、現代的で透明感に満ちたエルガー解釈として非常に印象的なものである。
I. Allegro vivace e nobilmente
冒頭から非常にバランスの取れた響き。マンゼはエルガーが意図した**「nobilmente(気品をもって)」**を、過剰な感傷や厚化粧のサウンドを排して、あくまで明晰な構造の中に気品を宿らせている。
ドイツのオーケストラ特有の整然としたアンサンブルが、エルガーの濃厚さを中和し、どこかブラームスにも通じる重層的構築性を浮き彫りにしている。マンゼはあくまで細部にこだわり、木管の対話や内声の処理が非常に丁寧。
II. Larghetto
この演奏の白眉。マンゼのテンポ設計は呼吸が深く、弦楽セクションの柔らかく深い歌い回しが胸を打つ。
「エルガーの抒情美」を大袈裟に誇張せずに、音楽の自然な呼吸と語り口に委ねるスタイルが秀逸。
木管のソロも非常に叙情的で、内面的な祈りのような響きを実現しており、ラトルやヒコックスの演奏にも匹敵する。
III. Rondo (Presto)
躍動的で歯切れがよく、弦と金管のコントラストが鮮烈。マンゼの棒さばきが明晰なこともあり、細部のリズムや音価がくっきりと浮かび上がる。
エルガー特有の皮肉めいたユーモアと緊張感が同居したこの楽章では、軽やかさと冷静さのバランスが取れた理想的なアプローチ。
ドイツの団体がここまでイギリス音楽を咀嚼して演奏していることに驚かされる。
IV. Moderato e maestoso
終楽章も内省と誇りが共存する、見事な仕上がり。テンポ設計が緻密で、展開部から再現部、コーダに至る精神的昇華の過程が極めて自然。
とりわけ最後の「nobilmente」主題の回帰が、誇張なく静かに輝く瞬間には深い感銘を受ける。
マンゼはエルガーの第2交響曲を、過去の指揮者たちのような「遺言」ではなく、生きた現代作品として再解釈しており、その姿勢に大きな価値がある。
🔍 総評
長所:
透明感と構築性を両立した現代的エルガー解釈
ドイツのオーケストラにしては異例のエルガー感度の高さ
第2楽章の詩情美が絶品
「nobilmente」の思想を品位と節度で体現
短所:
イギリス的な土臭さ(ボールトやハンドリーのような)を求める向きにはやや物足りないかもしれない
ブラスの荘厳さでは英国勢に一歩譲る
🏅 結論
アンドリュー・マンゼは、エルガーの交響曲第2番を「ドイツ語圏に響く作品」として再提示した数少ない指揮者の一人といえるだろう。深い内省と透明な構築性が融合したこの演奏は、エルガーを英国の外へと橋渡しするモデルケースとなりうる名演。
とくに**「エルガーの交響曲をヨーロッパに伝えたい」という文脈での演奏として、最高水準の成果**といえる。