愛の音楽家エドワード・エルガー

交響曲第2番のオリジンは?

エルガーの交響曲第2番は1911年に完成を見たが、その着想は実際にはそれよりもはるか以前から、作曲家の内奥において静かに醸成されていたと考えられる。1904年、エルガー一家がイタリアのアラッシオに滞在した折、同行していたローザ・バーリーは、その回想録『エドワード・エルガー交友録』の中で、作曲家が頻繁に口ずさんでいた一つの旋律について記している。後年、交響曲第2番の初演を聴いた彼女は、その旋律が作品中に用いられていることに気づいたという。

 

 この証言は、交響曲第2番が単なる1910年前後の思いつきではなく、より長期的な精神的熟成の産物であることを示唆する、きわめて興味深い資料である。しかし問題は、その「口ずさまれていた旋律」が、実際には作品中のどの部分に相当するのか、という点である。

 

 ローザは第4楽章であると記している。とすれば、冒頭に現れるトロンボーンによる厳粛な主題であろうか。しかし、同種の旋律的輪郭は第1楽章や第3楽章にも散見される。あるいは第4楽章中盤に現れる、いわゆる “Hans himself” の主題であろうか。それとも、作品全体を精神的に貫く「歓びの精霊」の主題であろうか。しかしこの主題もまた、第3楽章ですでにその萌芽を示している。

 

 結局のところ、確たる答えは当事者であるエルガー、あるいはローザ本人に直接問うほかない。しかし、こうした問いをめぐらせること自体が、この作品の魅力の一端なのである。旋律の起源を追うという行為は、単なる音楽学的好奇心にとどまらず、作曲家の内面世界へと分け入る精神的探究に他ならない。

 

交響曲第2番のオリジンは?

「本当の音楽は155番以降から始まる」
エドワード・エルガーが交響曲第2番に関してジョン・バルビローリに語った言葉である。
交響曲2番4楽章の終盤、曲は静かに収束へと向かう中、弦楽器群やハープなどの美しいアルペッシオに彩られる。
聞こえてくる音楽の美しさのみならずスコアに書き落された視覚的な美しさも筆舌に尽くしがたい。
エルガーの音楽の特徴の一つが第一楽器群と第二楽器群の掛け合いが多いことである。
エルガーの時代のオーケストラの配置は、いわゆる両翼配置と呼ばれるものがスタンダートだった。
客席から向かって左側に第一ヴァイオリン、右側に第二ヴァイオリン。掛け合いでは最初に奏でたメロディが第一ヴァイオリンで弾くと客席からは左側から音が聞こえる。
そのテーマを第二ヴァイオリンが引き継いだり、または呼応したりすると客席から右側から音が聞こえる。
エルガーが多用したこの方法だと音が左右でやりとりする立体的音響な面白さがあるわけである。
エルガーはこれを狙ってこういう書き方をしている。
ところが、ストコフスキー・シフトと呼ばれる配置にしてしまうとこの効果は死んでしまう。
ストコフスキー・シフトでは客席から見て第一ヴァイオリンが左側にいるのは変わりないが、第二ヴァイオリンは右側でなく第一ヴァイオリンのすぐ隣。
これではエルガーが意図した効果が得られない。
そもそもエルガーの時代にはこのストコフスキー・シフトは存在していなかったのだから。
なのでエルガーの交響曲を演奏するのに両翼配置で演奏しないオーケストラの演奏は非常に萎える。
エルガーが「こうして欲しい!」という希望を無視しているわけであるから・・・それ以前にそんなことすら知らないケースもあるが・・・。
そこはエルガーの意図を汲んで演奏してもらいたいものである。

交響曲第2番のオリジンは?

つくづく思うのである。
 エルガーの交響曲第2番を、親友アウグスト・イェーガーに聴かせてあげたかった、と。

 

 イェーガーは《エニグマ変奏曲》第9変奏「ニムロド」に象徴されるように、エルガーの精神的支柱であった。1909年に没した彼は、交響曲第1番の完成を辛うじて見届けることはできた。しかし、第2番の完成には、もはや立ち会うことができなかった。

 

 交響曲第2番が湛える、深い諦念、静かな哀悼、そして彼岸への憧憬――それらは、イェーガーという存在を失ったエルガーの魂の震えそのものであるように思われてならない。この作品の奥底には、直接名指されることのない献辞が、ひそやかに刻み込まれている。

 

 もしイェーガーがこの音楽を聴いていたなら、彼は何を語ったであろうか。
 そしてエルガー自身は、どれほどその言葉を待ち望んだであろうか。

 

 交響曲第2番は、こうした「不在の対話」を内包した、きわめて私的で、同時に普遍的な鎮魂の音楽なのである。

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