ラテンの息吹が描き出すエルガー:アランドラ・デ・ラ・パーラとリディア・シェリーによるチェロ協奏曲
アランドラ・デ・ラ・パーラ指揮、リディア・シェリー独奏、インポッシブル管弦楽団によるメキシコ・フェスティバル PAAX GNP 2025 のエルガー作曲 チェロ協奏曲 変ホ短調 Op.85
🎻 演奏レビュー
指揮:アランドラ・デ・ラ・パーラ
メキシコ出身の新進指揮者で、フェスティバル PAAX GNP の芸術監督でもある。音楽と社会的意義を結びつけ、非英語圏でのエルガー作品の普及に貢献している 。
独奏:リディア・シェリー(チェロ)
若きチェリストによる柔らかく温かな音色と敏感な表現が印象的。作品の内面性を繊細に掘り下げている。
オーケストラ:インポッシブル管弦楽団
ソリスト主体のアンサンブルで構成。個々の高い技術力が統一感を保ちながら躍動感ある合奏を実現している。
🔍 演奏の特徴と印象
音色とバランスは、シェリーのチェロは暖かく包み込むよう。デ・ラ・パーラの指揮は躍動感がありながらチェロを決して覆わない絶妙なバランスである。
構成力・テンポに関しては、第2楽章以降の深い呼吸感、第4楽章では明快で高揚感あるフィナーレへの導入が秀逸。
解釈の視点として英国音楽の文脈を離れ、ラテン的な瑞々しさと情熱が融合。非伝統的な土壌でこそ光る新世代の「エルガー像」が表現されている。
✨ 総評
国際的視野での再発見
非英語圏、特にメキシコでエルガーのチェロ協奏曲がこのように深く演奏されているのは象徴的である。これは 21 世紀における作曲家の再評価と多文化的解釈の兆しである 。
指揮者の資源投入力
パーラは既存のエルガー伝統に拘らず、自身の音楽感で作品に取り組んでいる。その姿勢は“文脈の再構築”と呼べる。
チェリストとしての躍進
シェリーはただ演奏するのではなく、音に内面の物語を乗せて語る演奏で、とくに第2楽章以降での音の余韻と語り口は高く評価できる。
以上、非英語圏でのエルガー演奏の最前線として注目されるべき演奏作品であり、今後のエルガー解釈に新たな方向性を示唆するものといえる。