愛の音楽家エドワード・エルガー

希少!サージェントの2番

エルガー:交響曲第2番 変ホ長調 作品63サー・マルコム・サージェント指揮 BBC交響楽団ロイヤル・アルバート・ホール(プロムス)/1965年9月1日(70歳誕生日コンサート)

 

この演奏は、サー・マルコム・サージェントが70歳の誕生日を記念して行ったプロムス公演の後半を飾ったものであり、彼のエルガー解釈の成熟を端的に示す貴重な記録である。実は、サージェントはこの交響曲第2番について、商業録音をほとんど残しておらず、1964年1月29日にブリストルのコルストン・ホールで行われた演奏(BBC Music Magazine 付録CDに収録)と1958年BBC PROMSでのLP録音(未CD化)が既知録音である。この1965年ロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ映像が近年YouTubeで公開されたことで、サージェントのエルガー第2交響曲の真価を初めて広く認識できるようになった。

 

演奏のクオリティは実に高く、サージェントのエルガーへの深い共感と精緻な統率力が随所に感じられる。

 

第1楽章「Allegro vivace e nobilmente」

は、まさに“nobilmente(高貴に)”の精神が貫かれており、BBC交響楽団の引き締まったアンサンブルとともに、エルガー特有の内に燃えるような情熱が見事に表現されている。テンポ設定は比較的流麗でありながら、各フレーズに丁寧な呼吸と抑揚が与えられ、構築感が強い。

 

第2楽章「Larghetto」

は、サージェントならではの情感表現が最大限に発揮された箇所であり、節度を保ちつつも感傷的な美しさを滲ませている。弦楽の音色は柔らかく、深い祈りのような響きを生み出す。

 

第3楽章「Rondo」

では、俊敏で軽快なリズム運びが印象的で、随所にユーモアすら感じさせる。一方で、この楽章に潜む陰りも決して見落としてはおらず、単なるスケルツォ的扱いでは終わらせていない。

 

第4楽章「Moderato e maestoso」

通常の演奏では、トランペットの149番を2小節間保持する慣習が存在するが、サージェントはあえて原典に忠実に1小節で切るという少数派の解釈を採用している。この決断は、曲全体の構造的緊張を崩さずに終止させる効果を生み、特にこの演奏では楽章全体における荘重な進行のなかに一種の潔さを加えている。

 

音質・映像ともにライヴとしては良好であり、1960年代中期のBBC交響楽団の高い演奏水準が如実に感じられる。サージェントのタクトは大仰さを排し、エルガーのスコアに内在する品格と情熱を誠実に引き出すことに成功している。

 

 

評価まとめ:

 

貴重性:★★★★★
商業録音が存在しない中、この映像は歴史的価値が極めて高い。

 

演奏解釈:★★★★★
高貴さと情熱の均衡、そしてリズムの明晰さが際立つ名演。

 

原典遵守:★★★★☆
終結部のトランペット処理に象徴されるように、楽譜への忠実さが印象的。

 

音質・映像:★★★★☆
ライヴ映像としては極めて良好。

 

この演奏は、エルガー演奏史における「知られざる至宝」と言って過言ではなく、サージェントのエルガー指揮者としての資質と愛情を知る上で、非常に重要な資料である。公式録音が存在しないのが惜しまれるどころか、この映像こそが決定的な記録と言えるだろう。

 

 

サージェントの2番@amazon

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