《ピアノ協奏曲(Concerto for pianoforte and orchestra, op. 90)》

エルガー作品の「良心」を伝えるウィリアム・ボートン

ウィリアム・ボートンは、イギリス出身の指揮者であり、英国音楽の普及、とりわけエドワード・エルガーの作品の紹介に尽力してきた人物である。特に1980年に自身が創設したイギリス交響楽団(English Symphony Orchestra, ESO)を率いての活動は、室内楽的なアプローチで英国作品の真価を掘り起こすという点で特筆に値する。

 

彼のエルガー演奏は、一般的に大規模な編成や誇張されたロマンティシズムを避け、透明で丁寧、そして誠実な音楽づくりに徹しているのが特徴である。そのため、一見地味に聞こえるかもしれないが、エルガーの作品に潜む内面の詩情や構築美がじんわりと浮かび上がってくる。とりわけESOとの協働においては、楽曲そのものの構造と叙情性の自然な流れを尊重した演奏スタイルで定評がある。

 

中でも注目すべきは、彼がロバート・ウォーカー補筆による《ピアノ協奏曲》(エルガー作曲・第1稿)の世界初演を指揮したという歴史的な功績である。この作品はエルガーの断片的な草稿をもとに復元されたもので、完成までには多くの困難があったが、ボートンは初演というリスクの高い舞台に立ち、結果的には初演は惨憺たる失敗に終わったものの作品改訂の機運を生み出した。1998年にエルガーゆかりのウースター大聖堂で行われた再演(録音も実施されたがリリースされず)も結果は思わしくなかったが、その後デヴィッド・オーエン・ノリスが改訂版を編集し、初演の失敗を見事に挽回。

 

録音としては多くは残されていないものの、エルガーの比較的小規模な管弦楽作品や声楽作品などを取り上げ、ESOのレパートリーの中心に据えることで、エルガーの多面的な魅力の再発見に大きく貢献してきた指揮者である。今日、派手な演奏解釈がもてはやされがちな中、ボートンのように作品に寄り添う誠実な指揮者の存在は、まさにエルガー作品の「良心」を伝える貴重な存在と言えるだろう。

 

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