《交響曲第3番(Symphony No.3, op. 88)》

スコティッシュ・シンフォニアを指揮するネイル・マントルによるエルガー/ペイン《交響曲第3番》

ネイル・マントル――この指揮者の名前を知っている日本のクラシックファンは、まずいないのではなかろうか。だが、実は彼こそ、エルガー普及の立役者のひとりである。

 

マントルはスコティッシュ・シンフォニア(Scottish Sinfonia)の常任指揮者を長年務める傍ら、英国エルガー協会(The Elgar Society)の実務的会長職にも就任している人物であり、2023年には同協会から**エルガー・メダル(Elgar Medal)**を授与されている。このメダルは、尾高忠明をはじめとする国際的なエルガー演奏家に贈られてきたものであり、エルガー演奏と研究への貢献を顕彰する最も権威ある賞である。

 

商業録音もいくつか残しており、中でも注目に値するのがエルガー《交響曲第2番》の録音である。筆者が初めてこの演奏を耳にしたとき、「この指揮者は只者ではない」と強い印象を受けた。というのも、エルガー第2番のスコアには、演奏解釈の分かれる繊細な部分がいくつかあるが、マントルはその一つひとつに極めて誠実かつ意識的にアプローチしているからである。

 

たとえば第4楽章の149番(楽章開始から5〜6分付近)、トランペットのハイB(H)は、2小節にわたり音を保持するのが半ば慣例化しているが、マントルはオリジナル通り1小節で切るという「少数派」のアプローチを取っている。また、第2楽章についても、**ジェームズ・ロッホラン(JamesLoughran)が提示した独特のリズム設計(ロッホラン・パターン)**を厳格に踏襲している、ほぼ唯一の指揮者だと思われる。これは記録には残っていないものの、マントルがロッホランから何らかの直接的あるいは間接的なインフォメーションを受けていた可能性すら感じさせる。おそらくは、ほとんどの聴き手が気づかないであろう些細な点だが、こうしたディテールに神経を配るその姿勢こそが、マントルの演奏家としての非凡さを物語っている。

 

そのマントルがエルガー/ペインの交響曲第3番を指揮した演奏が、YouTubeで視聴可能であるのは、まさに喜ばしいことである。

 

 

Part of a concert given by Scottish Sinfonia at St Cuthbert's Parish Church, Edinburgh in November 2019.
LeaderMichael Rigg
Conductor Neil Mantle MBE

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