再びロンドンへ

軍楽の砲火に宿る祈り――ルブリン軍事オーケストラによる〈ポローニア〉の熱演

Orkiestra Wojskowa w Lublinie(arr. R. Niepostyn)
*75回忌記念式典での演奏***

 

ポーランド・ルブリン軍事オーケストラによるこの《ポローニア》は、軍楽隊編成という特異な音響を生かし、エルガーが1915年に込めた“ポーランド国民の祖国への敬意と連帯の感情”を鋭く浮かび上がらせた演奏である。ポーランドの歴史的式典という場において奏でられることで、作品の本質である「亡国の民への献歌」と「国家再生への祈り」がより直接的に聴き手へ突き刺さる点が特徴的である。

 

編曲者R. Niepostynによるブラス主体の再構成は、原作の分厚い交響的テクスチュアを軍楽隊的輝度へと変換し、音楽の“軍事色”を強めている。特に《ワルシャワ労働歌》の提示は、ファゴットではなく中低音ブラスに置き換えられており、原曲以上に抵抗と決起のニュアンスが強調される。ここでは旋律が角ばり、質感は粗削りであるが、その素朴な力感は軍楽隊ならではの美質である。

 

続くエルガー自作のノビルメンテ主題も、金管の強靭な和声によって大胆に鳴らされ、祝典的かつ英雄的な雰囲気が増幅される。交響的なニュアンスをやや犠牲にしつつも、式典演奏としての格調と直情的な力感を前面に押し出した姿勢は明確である。

 

中間部のショパン《夜想曲》引用では、原曲の繊細な情緒は当然ながら薄まるものの、木管とユーフォニアムで柔らかく歌われる旋律は、失われた祖国の記憶を静かに思い起こさせる効果を生んでいる。ショパンの哀愁が軍楽隊の響きに溶け込むことは稀であるが、本演奏では意外なほど自然に処理されている。

 

クライマックスのポーランド国歌《まだポーランドは滅びず》に至ると、編成の特性が最大限に力を発揮する。軍楽隊の強大なブラスの響きが荘厳な上昇線を描き、エルガー作品に宿る“儀典音楽”としての本質と、ポーランドが歴史的に抱えてきた悲願とが一体化する。最終ページに向けての高揚は、原曲の壮麗さとは異なるが、より直接的で、より民族的な昂ぶりを感じさせる。

 

総じて本演奏は、学術的・交響曲的な精度を求めるものではなく、むしろ《ポローニア》が持つ歴史的意味を最も“生々しく”体現した稀有な実例である。エルガーがこの作品に込めた連帯の精神は、軍楽隊の響きと式典という文脈の中で、一層リアルに息づくのである。

 

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