愛の音楽家エドワード・エルガー

清澄と情熱の二重螺旋 ― エーネス&スカプッチによる北欧光彩のエルガー

ジェームズ・エーネス(Vn)、スカプッチ指揮ストックホルム・フィルによるこのエルガー《ヴァイオリン協奏曲》は、作品が本来備える“濃密な情緒”と“構築美”を、北欧オーケストラ特有の透明な響きの中で、実に若々しく再創造した名演である。

 

まず、スカプッチのタクトが実に新鮮である。エルガー演奏はしばしば重厚・内向・懐古の三点セットのように聴かれがちであるが、彼女はその固定観念を軽やかに越えていく。テンポは推進力を保ちつつ、フレーズの山谷を自然に呼吸させる。陰影は失わず、しかし“鈍重さ”は一切ない。これにより、協奏曲の巨大な構造が清風のように大きく巡り、作品の瑞々しさが前景化する。

 

エーネスはここでも圧巻である。彼の音は深く、しかし重さではなく“精緻さ”で聴かせる。特に第1楽章のカデンツァ的エピソードでは、音の粒立ちの美しさが際立ち、濃密なレガートと透徹した高音が完璧な均衡を保っている。第2楽章のカンタービレは、エルガー特有の“過去への憧憬”を内面化しながらも、過剰に泣かず、気品と清澄を湛えている点が特に素晴らしい。
第3楽章では、スカプッチの俊敏なリズム感とエーネスの切れ味が合流し、北欧的な明朗さとエルガー的な熱容量が二重螺旋のように絡み合う。ストックホルム・フィルの透明度の高い弦、さらに木管セクションの清潔なアタックは、英国のオケとは異なる“光の差し込み方”を持ち、その響きはエルガーの筆致に意外なほどよく馴染む。

 

総じて、この演奏はエルガー演奏史の伝統からは一歩距離を置きつつ、作品の本質を鮮やかに照射した極めて現代的な解釈である。エーネスの気品ある技巧、スカプッチの軽やかで明確な構築性、北欧オーケストラ特有の透明な音色――三者が完璧に融合し、エルガー協奏曲に新しい時代の光を差し込んだ演奏である。

 

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