作曲家エルガーのもう一つの顔、発明家エルガー
エドワード・エルガーは、音楽的才能だけでなく“化学の趣味”を持つアマチュア科学者でもあった。その好奇心は単なる実験心だけにとどまらず、自ら硫化水素を合成する装置を設計し、特許化されたほどである。
⚗️ 「Elgar Sulphuretted Hydrogen Apparatus(エルガー硫化水素装置)」
独自設計の装置:エルガー は「新しい硫化水素マシン」を設計し、周囲では「Elgar S.H. Apparatus」と呼ばれた。
市販に向けた試み
:友人アウグスト・イエーガーに宛てた手紙では、「製造されるらしい」との話が伝えられており、製造・販売の可能性があることがうかがえる。
ユーモアも忘れずに:「おもちゃのような装置」と称しながら、「送っても飽きるだろう」と冗談交じりに語っている。
🎼 エルガーの化学趣味と音楽創作の関係
音楽と化学の共鳴:楽譜を書く合間に「石鹸を作った」と手紙に記すなど、実験と創作の両立は、科学への情熱と音楽の探求心が彼の中で共存していたことを示す。
創造性のルーツ
:自作装置の発明という行為からも分かるように、エルガー は音符の背景にある物理・化学という構造への関心を抱えていた。
全体像
:20世紀初頭、英国的ロマンティシズムの頂点を極めた一方で、彼は化学という別世界の探究にも没頭していたのである。
エルガーはただの作曲家にあらず。自ら「Elgar S.H. Apparatus」を発明し、実際の製造が噂された事実は、彼の多才さと創造への飽くなき好奇心を象徴している。「硫化水素装置」の発明は、化学という異分野への真摯な探求――それは単なる修練ではなく、『音楽と物質の双方に意識を向ける感性』が、彼の芸術により豊かな深みを与えていた証であろう。
このように、彼の音楽創造の根底には、化学的・構造的思考への共感があり、それが作品そのものにも微妙に影響を及ぼしていた可能性があるといえよう。
エルガーは、ヘレフォードの自宅(Plâs Gwyn)地下に「箱舟=The Ark」と名づけた化学実験の小さな実験室を設置していた。彼は熱心なアマチュア化学者でもあり、特に硫化水素生成装置(Elgar Sulphuretted Hydrogen Apparatus)を発明し特許を取得、その後Philip Harris社によって製造されたほどである 。
1908年夏にはこの実験室を離れの納屋に移した際、W. H. リードによると、エルガーは「乾燥させたリン酸混合物」を水缶に捨てたところ、それが自然発火を起こして水桶が爆裂、蓋の輪が外れ、破片が飛び、水がドライブ沿いに「固い壁」のように流れ出たという逸話を残している。エルガー自身は一見冷静にパイプをくゆらせながら「音は聞こえたがどこで起きたのか?」と近所の人に尋ねたとのことである 。
これらの記録は、エルガーが化学を創作的好奇心の対象とし、自作の「科学的道具」を用いて失敗から派生した偶然の爆発すらも、音楽の魂である「破壊と再生」のイメージと重ねて楽しんでいた可能性を示している。彼の「化学実験」は単なる趣味を越え、創作と科学の双方に跨る探究心から生まれた、まさに《音楽家であり発明家たるエルガー》の別の側面と言えるであろう。