愛の音楽家エドワード・エルガー

オラモ指揮、王立ストックホルム管によるエルガー交響曲第2番

サカリ・オラモ指揮、王立ストックホルム管によるエルガー交響曲第2番。
オラモのエルガーといえば、BBCプロムスなどで幾多のエルガープログラムを取り上げ、その演奏には十分定評がある。特に彼の指揮する「使徒たち」などは恐ろしいほどの名演だった。これまで彼の指揮するエルガー作品がリリースされなかったことが不思議なくらいだ。
ここに聴かれる交響曲2番の流麗な響きは、かのプレヴィンを上回る。軽い響きではあるがしっかりとした軸足でどっしりと曲の本質を捉えているのだ。
特に核心部分となる第4楽章の慈しみ深い表現には涙を禁じえない。
特筆すべきは、この録音は、ハンドリー、マッケラス盤に続く第4楽章オルガン入り盤なのだ。本当にオルガンバージョンでの効果は絶大なものがある。どうか確かめてみてもらいたい。
ちなみに1947年3月の王立オルガン・カレッジにおけるボールトのレクチャーによると、楽譜にはないが、第4楽章の最後にオルガンを加えてもよいということだ。場所はスコア番号の165番の8小節後で、楽章開始から10分ほどの「喜びの精霊」のテーマが最後に出てきてディミヌエンドする部分。不思議なことにボールト自身の録音では、オルガンを入れていないのだが、ボールトの直弟子ハンドリーによる録音によって、このオルガン版を聴くことができる(これに続くのがマッケラス盤と今回のオラモ盤)。これは元々エルガー本人がボールトに教示したとされているが、この辺の真相も定かではない。

 

 

 

 

オラモ指揮エルガー交響曲第2番

 

オルガンが入るマッケラス盤の該当部分

オルガンが入るオラモ盤の該当部分

オルガンが入るハンドリー盤の該当部分

Edward Elgar: Sinfonie Nr. 2 | Sakari Oramo | NDR Elbphilharmonie Orchester

サカリ・オラモ指揮NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団によるエドワード・エルガーの交響曲第2番変ホ長調。 ハンブルク・エルプフィルハーモニー管弦楽団による2024年11月21日録音。

 

エドワード・エルガー:交響曲第2番 変ホ長調 作品63

 

00:00:00 I. アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・ノビルメンテ Allegro vivace e nobilmente
00:18:04 II. Larghetto
00:32:49 III. ロンド Presto
00:40:38 IV. モデラート・エ・マエストーソ

 

 

サカリ・オラモが再びエルガーの第2交響曲に挑んだ。かつて王立ストックホルム管弦楽団と録音したBIS盤が高い評価を得た彼であるが、今回のライヴではさらに成熟と余裕を感じさせる見事な演奏を披露している。

 

演奏の特徴は、まずその流麗な響きにある。軽やかにして透明、しかし決して軽薄にはならず、しっかりとした構造感とドラマの起伏を内包している。その意味では、プレヴィンの同曲解釈を凌ぐほどの完成度である。細部まで磨かれたアンサンブルと色彩の妙は、エルガー音楽の持つ「交響詩的構築」の本質を美しく浮き彫りにする。

 

特筆すべきは終楽章における表現力である。この楽章が持つ内面的な慈愛、特に第155小節以降に見られるエルガー特有の抒情と諦念が、オラモの指揮のもとでは実に繊細かつ誠実に描かれている。感情過多に陥らず、しかし冷静でもない——そのバランス感覚は絶妙であり、心に深く響く演奏となっている。

 

なお、ストックホルム盤ではオルガン入りバージョンを採用したオラモだが、今回のライヴ演奏は標準版で行われ、ハンドリーやマッケラスのように第4楽章にオルガンを加える版ではなかった。しかし、それによって表現の密度や感動が損なわれることは全くなかった。むしろ、管弦の響きだけでここまで豊かな精神性を伝えられるという点で、オルガンなしの解釈としては随一の成果と言える。

 

指揮者の国籍や経歴についても一考を要する。オラモはフィンランド出身であり、今回のエルプフィルとはドイツでの共演、過去にはスウェーデンのオーケストラとの録音経験もある。すなわち、北欧と中欧の文脈の中で、英国音楽の本質をこれだけ深く掘り下げているのである。かつて「英国音楽は英国人でなければ振るべからず」といった不文律があった時代があったが、今やその考えは過去の遺物となった。

 

尾高忠明の真摯なエルガー解釈、大友直人の端正な造形感覚、鈴木雅明とBCJによるバッハ演奏の世界的評価、さらにはチョン・ミョンフンやドゥダメルといった指揮者たちが見せる作品への共感と深い読解力。それらはすでに「国籍の壁」を越えた音楽解釈の新しい時代の到来を証明している。

 

このオラモのライヴは、まさにその象徴とも言える演奏である。現代のエルガー演奏において、重要なマイルストーンとなるであろう名演である。

 

 

 

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