静かなるエルガリアン――エドワード・ダウンズの美学
エドワード・ダウンズ(1924年6月17日 – 2009年7月10日)は、イギリスの指揮者として20世紀後半の英国音楽界において着実な存在感を示し続けた人物である。特にオペラの分野では、ヴェルディのスペシャリストとして名高く、ロイヤル・オペラ・ハウスやオーストラリア・オペラにおいて重きを成した。しかし、彼のもうひとつの軸が「イギリス音楽」、とりわけエルガー作品への静かな献身にあることは、知る人ぞ知る評価となっている。
エルガーの音楽を派手に煽り立てるのではなく、内面的な構造を解きほぐし、じっくりと掘り下げていく――そんなダウンズならではのアプローチは、エルガーの交響曲第2番の録音(BBCフィル/ナクソス)で結晶化している。
この録音は一見地味に見えるかもしれないが、その実、音楽の深層にある翳りや希望を丹念にすくい取った名演として多くのエルガー愛好家から高く評価されている。過度な情緒に走ることなく、構築美と静かな情熱で第2番の巨大なフォルムを組み上げていく手腕には、真の職人としての矜持が感じられる。とりわけ終楽章の霊的とも言える浄化の感覚は、外連味のない指揮だからこそ生まれる響きだ。
ダウンズはまた、マンチェスターにおけるBBCフィルとの長期的な協働関係を通じて、ブリテン、ヴォーン・ウィリアムズ、ウォルトンなど英国の主要作曲家の作品にも積極的に取り組んでいた。だが彼のエルガーには、やはり格別な「英国の心」の投影がある。
声高に自己主張するタイプではない。だが、だからこそ――ダウンズのエルガーは、静謐の中にこそ真実があると信じる者にとって、まさに理想の解釈なのだ。