愛の音楽家エドワード・エルガー

愛の音楽家エドワード・エルガー

尾高忠明のエルガー1番(2023)

 

2023年7月2日
東京オペラシティ

 

 

尾高忠明指揮、パシフックフィルハーモニア東京

 

エルガー:交響曲第1番

尾高忠明のエルガー1番(2023)

 

ジャッジペーパー
Conductor EXcellent 5
Orchestra VG 4
Seat location 4
Audience 4
Pablicity 3
20点/25満点中
80%/100

 

 

 

御大降臨!としか言いようがない。
贔屓ではなく純粋に言って世界一のエルガーだと思う。
尾高のエルガー1番を初めて聴いたのが1995年のBBCウェールズ響の来日公演。
今と比べたらエルガーという作曲家の存在はもっとマイナーだった。
それでも、あのサントリーホールでの大熱狂ぶり。あんなの見たことがなかった。
以来、尾高は在京のオケから札響や大フィル、京都市響、神奈フィルなどの地方オケでもエルガーの1番を振っている。
もちろん、こんなこと出来たのは尾高だけである。
95年のBBCウエールズ以来、可能な限り尾高のエルガーの実演には足を運ぶようにしている。
そのほとんど全てが極めて高い水準のレベルで、凄まじい共感度にあふれている。
また、彼の人柄がエルガーのパーソナリティにマッチするからこその名演の成立だろう。
こういうアプローチをする指揮者って実はあまりいない。
いつだったか忘れたが、尾高のエルガー作品の終演後にいつまでも拍手が鳴りやまなかった。
おそらく30分くらい続いていた。
すると、マエストロ尾高がなんとパジャマ姿でステージに現れた。
「いやあ、もうエルガーを演奏してもう燃え尽きてクタクタで、ホテルの部屋に戻ってもう寝ようとしてんだけど。マネージャーが来て、お客さんが帰らないから尾高さんもう一回ステージ戻ってくださいよって。
だって、もう僕パジャマに着替えちゃったのに、それでもいいから来てくれって言われて戻ったのよ」
と後に語っていた。
しかし、衣装ではなくガチの寝巻姿でサントリーホールのステージに立ってのは古今東西広しといえでもこの人くらいなものだろう。
そんなお茶目の一面も尾高の魅力でもある。
そんな尾高の織り成すエルガー像はまさに等身大の作曲家エルガーの姿そのものだ。
ではジャッジ項目を見ていこう。
Conductor=Excellent=5
最高点のExcellent。これはもう仕方あるまい。これまでの実績。そして今日この日の出来栄え。これ以外付けようがないではないか。
本当に演奏直後疲労困憊していたのはいつものことだが、今日は度重なるカーテンコールに応えるのもムリ!という感じでコンサートマスターの手を引いて引っ込んでしまった。
それほどの燃焼度だった。
解釈は昔から一貫したものではあるが、本人に言わせると昔ほど情に流されることはなくなったと言っていた。
それだけにリーダーシップを発揮して要所要所での手綱さばきは流石である。
Orchestra=Very Good=4
先日の山田和樹の指揮したバーミンガム市響に比べたら機動力でやや劣るかな?とも思われたが、そんなことはなく一歩も引けを取らなかった。
オープニングでのモットー主題を繰り返す時に尾高の指示を待たずにフライング気味に飛び出したように見えたところに、曲自体と尾高の解釈に慣れていないところがあるのだろう。
それも時間と回数が解決してくれるはずだ。
全体的なパワーバランスでもバーミンガム市響と比べても遜色ないものだ。
それにしても最近の日本のオケの力量の向上ぶりは本当に凄い。
Seat Location=No Good=4。
3階のステージ右側。バルコニー壁によってステージが半分見えない席。東京オペラシティにはこのように信じられないひどい席がある。
見づらいというハンディキャップがあるので加点要素を加えて4点とする。
こちらから見ると手前になるトランペット、トロンボーン、ヴィオラ、チェロが見えないというのはかなりフラストレーションではあったが、音的にそれほど聴こえないということはなかった。
Audience=Very Good=4
残念なことに客席の埋まり具合は5割から6割。
オケの知名度と英国音楽という比較的マイナーなプログラムに集客の苦労が伺えた。
しかしお客さんの質は申し分ないもので、明らかに尾高ファン、エルガーファン、英国音楽ファンと思わしき聴衆の存在が伺えた。
素直に名演奏に対してのリアクションは好感の持てるものであった。
Pablicity=Avarage=3
プログラム解説はやはり可もなく不可もなく当たり障りのない内容であった。
エルガーの解説の中で一か所だけ「その記述の出どころはどこ?」と書いたライターさんに聞きたい部分があったが、大した内容ではないのでマイナス要素にはしないことにする。
総合的に見て、先日の2番といい、やはり御大が出てくるとまるで水戸黄門が印籠をかざすがごとくすべてを一掃してしまう印象がある。
前に書いたが尾高という指揮者は不思議なことに録音とか録画には、なぜか入りきらない凄さがある。
なので尾高の場合は実演に接しないと本質を見極めることができないのである。
それが大友直人などの演奏と比べると、少し地味なイメージを持たれている原因なのかな?とも推測する。
地味ではないが、誠実かつ心で作曲者と繋がろうとして、その解釈を心で表現する指揮者といえばいいだろう。
しかし、尾高の演奏は味わえば味わうほどドンドンと濃厚な味わいが出で来るのである。
だからこそ彼の演奏は実演で味わってほしい。

 

尾高忠明のエルガー1番(2023)

このエントリーをはてなブックマークに追加

愛の音楽家エドワード・エルガー電子書籍はこちらからどうぞ

尾高忠明のエルガー1番(2023)

エドワード・エルガー 希望と栄光の国

尾高忠明のエルガー1番(2023)

愛の音楽家 エドワード・エルガー

関連ページ

メニューインの《ヴァイオリン協奏曲》
【作品紹介5】傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。メニューインの《ヴァイオリン協奏曲》について
ヒラリー・ハーンの《ヴァイオリン協奏曲》
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。ヒラリー・ハーンの《ヴァイオリン協奏曲》について
ヴァイオリン協奏曲の考察
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
ハイフェッツのコンチェルトについて
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガーのヴァイオリン協奏曲のタイムテーブル
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガーのヴァイオリン協奏曲2023その①
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガーのヴァイオリン協奏曲2023その②
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
ヴァイオリン協奏曲に秘められた謎
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
マリー・ホールのヴァイオリン協奏曲
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
タスミン・リトルのヴァイオリン協奏曲
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
隠れた名演!五嶋みどりのコンチェルト
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガーの音楽に介在する2面性
【作品紹介6】英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。愛の音楽家エドワード・エルガー
ノリントンのエルガー
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。思い出のエルガー・コンサートへのタイムスリップ3。ノリントンのエルガー
エルガー交響曲第1番日本初演
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガー交響曲第1番にまつわるエピソード
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
山田和樹のエルガー:交響曲第1番
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
大友直人のエルガー1番(2024)
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
ジェフリー・テイトのエルガー1番
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
《交響曲第2番(Symphony No.2 in E flat major, op. 63)》
【作品紹介7】英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。《交響曲第2番(Symphony No.2 in E flat major, op. 63)》
「本当の音楽は155番以降から始まる」
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
2002年の大友/東響のエルガー2番
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
大友/東響のエルガー2番 2007年
思い出のエルガー・コンサートへのタイムスリップ。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。大友/東響のエルガー2番
大友/群響によるエルガー2番
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。大友/群響によるエルガー2番
大友直人のエルガー2番(2023)
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガーのロンド
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。舞台劇「エルガーのロンド」について
交響曲第2番に隠された6人の人物
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。交響曲第2番に隠された6人の人物とは?
ガーディナー指揮のエルガー2番
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガー交響曲第2番第2楽章コーダのロッホラン問題
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。エルガー交響曲第2番第2楽章コーダのロッホラン問題について
尾高のエルガー2番(2023)
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
泣き節全開!広上のエルガー2番
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
エルガー交響曲第2番に関してのナゾ?
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
交響曲第2番のオリジンは?
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
オラモ指揮エルガー交響曲第2番
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
交響曲第2番第4楽章オルガンの問題
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
1910年のエルガーに何が起こったか?
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。1910年のエルガーに何が起こったか?
エルガーのスターライトエキスプレス
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。
Nobilmente Elgar
英国の作曲家エドワード・エルガーの人生や作品を詳しく解説した同名の書籍のウエブサイト版。傑作の森といわれるエルガーの最高傑作の数々を産み出した時代。

ホーム RSS購読 サイトマップ

先頭へ戻る