ガーディナー/ウィーンフィルによる「エニグマ変奏曲」

愛の音楽家エドワード・エルガー

ガーディナー/ウィーンフィルによる「エニグマ変奏曲」

 

 

 

 

 2002年2月、ドイツグラモフォンよりサー・ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、ウィーンフィルによるエルガー作品がリリースされた。ウィーンフィルによるエルガーといえば、96年にショルティの指揮により「エニグマ変奏曲」が定期で取り上げられ、翌年に録音がリリースされたことがある。また、ノリントンが交響曲第1番を指揮している以外は、同楽団とエルガーはほとんど縁がなかったといっていいのでは?
 この録音は98年の収録だが、その4年後にようやく発売になった。というのも以前、エルガー協会を通じて、ぜひこの録音を発売するようにDG側に申し入れて欲しい頼んだことがあった。エルガー協会の回答としては「EMI、シャンドス、ニンバスといったレーベルは比較的好意的に、こうしたリクエストに応じてくれるのだが、グラモフォンは見返りに金銭的要求をしてくる可能性が強く、それも金額的にペイできるかどうかも疑問」とのことだった。
 しかし、DGが発売に踏み切ったというのは、このエルガー協会の要請(同協会が実際にオファーしたかどうかも不明)に応えたというよりも、むしろノリントンの活躍に刺激された、というのは考え過ぎか?
 これまで比較的エルガー作品には冷たい(?)態度を取り続けてきた同レーベルであるが、意外にも同レーベルから出る「エニグマ変奏曲」はこれで5種類目ということになる。(1.バーンスタイン/BBC響、2.ヨッフム/LPO、3.デル・マー/RPO、4.シノーポリ/PO)
 これはEMIに次いで2番目の多さである(3番目はChandosか?)それだけに同社にとってもこの曲に対する特別なプライドのようなものが感じられるのだ。

 

 

【演奏評】
 ガーディナーとウィーンフィルによる録音は、様々なポイントでの興味深い比較ができる。まず同じウィーンフィルによるショルティの「エニグマ変奏曲」との比較。そして、同じ英国出身、かつ同じく古楽畑のノリントンによるエルガー演奏との比較。またウィーンフィルとベルリンフィルによるエルガー演奏の比較など。
 まず、一聴してやはりウィーンフィル独特の弦とホルンなどのソフトで輝かしい響きに耳を奪われ、「ウィーンフィルの音色」が強く感じられる。その点ではショルティの遺した「エニグマ」でも同様のことが言えるのだが、そこにガーディナーならではの色付けが鮮やかに溶け合っており、演奏は比類のない美しさに彩られている。ところどころに力瘤をデコレーションすることによって意識的な山場を作ろうとするショルティ盤に対して、ガーディナーは彼の手兵であるモンテヴェルディ合唱団にいつもそうさせているのと同じように、力むことなくごく自然に流れるようにドライヴしている。そこが結果的に美しさを際立たせる相乗効果を生んでいるようだ。ほとんど、この曲に対して馴染みがないであろうウィーンフィルの楽員にとっても、この演奏によって、よりエルガーという作曲家に親近感がわいたのではないだろうか?
 しかし、正直違和感が全くないわけではない。やはり、その美しすぎるということが逆にエルガーの本来持っている素朴なパーソナリティを若干曇らせているイメージがある。勿論、彼の人生においても王室音楽主任という輝かしい経歴といった表向きの一見華やかに見えるイメージ(それは彼の代名詞的な言葉であるNobilmenteな曲想に結びつく)がある。しかし彼が実際にはそういった華やかさを望んでいなかったというジレンマが彼を苦しめていた。この演奏ではウィーンフィルの過度に美しく洗練された響きが、その彼の華やかな方のイメージばかりをクローズ・アップしているかのようだ。
 同じ英国古楽派ノリントンと比較すると、ガーディナーの方が正攻法であるが、ノリントンがベルリンフィルとウィーンフィルで(サイモン・ラトルよりも先に)エルガーを演奏しているという点で、今のところ話題性で一歩ノリントンに軍配が上がる感がある。この演奏が4年間もドイツグラモフォンのアルヒーフで眠っていたという事実も2人のライバル争いの判定結果に響いてきそうだ。
 ウィーンフィルとベルリンフィルによるエルガーの演奏比較という点では、数少ない録音材料から見てみよう。ウィーンフィルによるエルガーは、今回のガーディナーによる「エニグマ」とショルティの「エニグマ」の2点あり、ベルリンフィルでは、ウォーレンシュタインとフルニエによる「チェロ協奏曲」とレヴァインによる「エニグマ変奏曲」がある。ウィーンフィルの方は、一聴してウィーンの音色と気づかせる自己主張があるのに対して、ベルリンフィルの方が何の違和感もなく同化しているように感じられる。つまりオケの名前を伏してエルガーの曲を演奏させた場合、ウィーンの方はウィーンフィルであるとわかってしまうが、ベルリンの方は事によると英国のオケと思われても不思議ではないくらい上手く化けている(注意:技術論とは全く無縁の話)。
 更に今のところ録音はしていないが、ガーディナーは他に交響曲第2番や「ゲロンティアスの夢」などを演奏しており、これらの演奏がリリースされることを期待したい。
 いずれにせよ、このガーディナーによるエルガー作品集、圧倒的名演の登場であることは間違いない。「エニグマ変奏曲」の推薦盤の一角としての地位を与えられても不思議ではない。最近のエルガーの新録音は非常に質の高いものが多く驚かされる。

 

ガーディナー/ウィーンフィルによる「エニグマ変奏曲」

 

EDWARD ELGAR/Enigma Variations
In the South op. 50
Introduction and Allegro op. 47
Sospiri op. 70
  Kuchel Quartet
  Wiener Philharmoniker
  John Eliot Gardiner

 

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