エルガー交響曲第2番第2楽章コーダのロッホラン問題

愛の音楽家エドワード・エルガー

エルガー交響曲第2番第2楽章コーダのロッホラン問題

 

 

 

事の始まりはMaichael Grundyの著書「Elgar's Beloved Country」にこんな記述があった。

 

 

「指揮者のロッホランが(エルガー・バースプレイスに)訪ねて来た時のこと、彼は《交響曲第2番》の自筆譜に2時間以上もかぶりついていた。
近々、同曲を指揮することになっているらしく何か困っている様子であった。
印刷されている楽譜に記されている、ある部分のクレッシェンドの指定がどうしても思うように演奏できないらしかった。
そこで自筆譜を研究したところクレッシェンドは別の箇所に記されているのを発見し、彼はとても納得した様子で帰っていったという
(この項Maichael Grundy著「Elgar's Beloved Country」 76ページより)」

 

 

このジェームズ・ロッホランが発見したというクレシェンドの別の箇所はどこか?。
それがどうしても知りたくて本人に会って直接聞いてみたかったのだ。
2002年5月16日東京サントリーホールにて日本フィルハーモニー交響楽団第540回定期演奏会に
エルガーの交響曲第2番を演奏するためにロッホラン本人が来日したのである。
終演後、マエストロを訪ねてズバリ聞いてみた。

 

 

それは第2楽章最後の部分89番の3小節後のトロンボーンのクレシェンド・ディミヌエンドのことだという。
印刷された楽譜上では、まずフルート、クラリネット、ファゴットなどの木管郡がA、C、Fisなどでppからクレシェンドをかけながら入ってくる。
次にトロンボーンが同じようなディナーミックでA、C、Eで入って来る。最後に弦楽器が呼応して静かに消えていく。

 

しかし、ロッホランが自筆譜上で発見したのは、トロンボーンのクレシェンドの頂点が印刷譜よりも2拍後だったのである。
しかもクレシェンドの頂点は、楽譜上ではメゾフォルテであるが、ここをフォルテまで膨らませる。
こうすると従来よりもトロンボーンがより浮かび上がり、かなり違った感じに仕上がるし、より深い印象を残すことができる。とロッホランは語っていた。
またこの部分にはエルガーが自筆で「E.E」をわざわざサインをしていたとも。

 

 

 

 

確かに、エルガーは記号を書き入れる際に、やや右下に書くクセがあったようなのである。
これを写譜する際の写譜工が見誤って書き入れて出版されてしまった可能性もある。

 

 

しかし、肝心のエルガーの自作自演ではこのパターンを採用していないのでの真偽のほどは未だにわからない。

 

エルガー交響曲第2番第2楽章コーダのロッホラン問題

 

 

 

ロッホランと会見した時にもう一つ面白いエピソードがある。

 

 

私がサントリーホールの楽屋でロッホランにこの件について質問したところ、彼は非常に驚いていた。
というのも、前日のコンサートレクチャーで、私と全く同じことを質問してきた日本人がいたというのである。
遠い日本という異国の地で、スコアの重箱の隅をつつくような質問を同じ内容の2度も受けたのだから。
その人物は私の著書「エドワード・エルガー/希望と栄光の国」を読んで、そのことに興味を持ちロッホランに質問したそうである。私も大変驚いた。
その人物とは、その時に連絡を取り合い、以来よく語らうような仲になり、今でも大切な友人である。

 

 

 

動画による比較

 
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