再出発・・・合唱音楽の里

愛の音楽家エドワード・エルガー

再出発・・・合唱音楽の里

 こうしてエルガー夫妻の最初の冒険は失敗に終わる。そして1891年、3人に増えた一家はウースターへと戻り、6月29日モールヴァン・ヒルが眼前に拡がるモールヴァン・リンク、アレクサンドラ・ロード35番地(現37番地)の「フォーリ」と呼ばれる静かで美しい家へ転居する。「フォーリ」とは、イタリア人画家メロッゾ・ダ・フォーリの名前から来ている。
 故郷のモールヴァンに戻ったことによりエルガーはリフレッシュする思いだった。生まれ育った自然の中に浸ることによってエルガーの創作意欲がかえって刺激されたのか、次々と作品を産み出し始めたのである。
再出発・・・合唱音楽の里

 

 1892年エルガー36歳の時に結婚3周年を祝って《弦楽セレナード(Serenade in E minor for string orchestra, op.20)》を作曲する。この作品は1888年5月7日にアマチュア・オーケストラを指揮した時に演奏された《弦楽オーケストラのための三つの小品(Three Pieces for strings)》を改訂したものではないかと今日推定されている。正式な初演は、第2楽章のみが1893年4月7日、ヘリフォードにて、全曲は1896年7月23日、ベルギーのアントワープにて行われた。この曲は、急・緩・急の3部形式を持つ編成で、エルガーのこれまでの経験の蓄積が実を結んだかのような豊かな曲相を持っている。特に第2楽章はエルガーのアリスに対する深い愛情表現が感じ取れるような優しさに溢れている。
 「スリークワイヤフェスティヴァル」などで合唱音楽が盛んな、この地方でエルガーは幾多のカンタータ、オラトリオ作品の作曲に取りかかる。母親の影響でアメリカの詩人ヘンリー・W・ロングフェローの作品に接したエルガーは、《ブラック・ナイト(The Black Knight, symphony for chorus and orchestra, op. 25)》(1892)や《オラフ王(Scene from the Sage of King Oraf, op. 30)》(1896)といったカンタータを産み出す。1896年には、夫妻でこの頃よく訪れていたドイツのバイエルン地方の風景を、アリスの詩により描いた合唱曲《バイエルンの高地から(Scene from the Bavarian Highlands, op. 27)》を作曲(後に3楽章の管弦楽曲にも編曲される)。「聖書」のキリストの布教を元にしたオラトリオ《生命の光(The Light of Life = Lux Christi, op. 29)》(1896)は、後に作曲される大作《使徒たち》(1903)への布石とも言える。1897年には、英国の守護聖人セント・ジョージを讃えたバラッド《セント・ジョージの旗(The Banner of St. George, op.33)》、同年《テ・デウムとベネディクトゥス(Te Deum & Benedictus, op. 34)》を作曲。1898年には、リーズ音楽祭の依頼を受けてカンタータ《カラクタクス(Caracutacus, op. 35)》を作曲する。これは、モールヴァン・ヒルを舞台にローマ人の侵攻に抵抗したブリトン人の英雄カラクタクスの物語を描いている。これらの合唱作品は、まだ荒削りな一面を残しつつも、確実にエルガーの作曲技法を進歩させ、最高傑作《ゲロンティアスの夢》完成へと結びついてゆく。
 1895年、エルガーは、ウースター大聖堂のオルガンが改修された際に、友人でオルガニストのヒュー・ブレアにオルガンのためのソナタの作曲を依頼される。その依頼があまりにも急であったためにエルガーは作曲に専念するための十分な時間を取ることもできなかったが、何とか《オルガン・ソナタ》第1番を完成させた。エルガー初期の作品ながら、後の作品に見られる様々な様子が散りばめられた意欲的な作品となった。

 

 

〔参考CD〕
*《弦楽セレナーデ》 バルビローリ指揮/シンフォニア・オブ・ロンドン
 特に第2楽章が出色。バルビローリのスタイルによくマッチしている。
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*《ブラック・ナイト》《バイエルンの高地から》 ヒコックス指揮/ロンドン響ほか
 エルガーの合唱作品の大部分を録音しているヒコックスの統率が取れた演奏。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/5agc38
*《オラフ王》 ハンドリー指揮/ロンドン・フィルほか
 今の所、唯一の録音。最後の方に歌われる合唱曲「As torrents in summer」は単独で取り上げられる機会もある美しい曲だ。
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*《生命の光》 グローヴス指揮/ロイヤル・リヴァプール・フィルほか
 聖書の物語に基づくイエスが盲人の目を癒したというエピソードをオラトリオとして作曲。物語としては《使徒たち》に繋がる。
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*《セント・ジョージの旗》 ヒコックス指揮/ノーザン・シンフォニアほか
 現在唯一の全曲録音。《ゲロンティアス》へ繋がる合唱の壮大さの片鱗が伺える。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/5ozuva

*《カラクタクス》 ヒコックス指揮/ロンドン響ほか
 リーズ音楽祭の依頼を受けたことにより作曲されたオラトリオだが、母アン・エルガーの「モールヴァンを舞台にした曲を作ってみては」という提案で、この題材を思いついたという。
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*《オルガン・ソナタ》 キース・ジョン
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