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ゲロンティアスの夢 隠された数字12

愛の音楽家エドワード・エルガー

ゲロンティアスの夢 隠された数字12

 

 

 記録で遡ることができるエルガーと「ゲロンティアスの夢」のファーストコンタクトは1885年ころとされている。この時にエルガーは、このヘンリー・ニューマン枢機卿による長編詩のコピーを入手。次に1889年にキャロライン・アリスとの結婚式を挙げた際、エルガーがオルガニストを務めた聖ジョージ教会のナイト神父から、同書を贈られている。彼は自身がカトリック信者であるという立場から、ニューマンの描く崇高で劇的なモノローグに感銘を受け、その頃から、この長編詩に曲をつけるという決心を固めていたようである。
 1898年にバーミンガム音楽祭からオラトリオ作曲の委嘱を受けたエルガーは、当初聖アウグスティヌスにまつわる作品を書こうとしたが都合がつかず、これを断念。そして、以前から抱きつづけていたキリストの12使徒に関する作品に取り掛かろうとする。しかし、これも時間的関係で困難とのことで、一度は委嘱を断る手紙を実行委員会に送っている。その後、彼は実行委員の説得に応じて、もう一つ抱き続けていた構想を実行に移すことを決心したのだった。

 

 

 「エニグマ変奏曲」と「海の絵」という2つの出世作に追われた1899年が終わると同時に、エルガーは猛烈な勢いで「ゲロンティアス」に着手し始めた。作品の大部分は、「バーチウッド・ロッジ」で書かれた。エルガーは語っている。「木々が私の歌を歌っている。それとも私が木々の歌を歌っているのか」。美しい森の空気がエルガーに次々と霊感を与えた。バーチウッドから西へ伸びるナイトウィックまでの遊歩道を散策しながら、エルガーは「ゲロンティアス」の曲想を得た。ナイトウィックにはエルガーが愛したテーム河がある。晩年、病床に伏したエルガーは、この河で佇んで「ゲロンティアス」を作曲した頃をよく追想したという。
 作品は1900年6月6日、バーチウッドにて完成を見たが、フィナーレを巡ってイェーガーとやりとりを重ねたお陰で、パート譜がすべての演奏者に配られるのが大いに遅れてしまった。さらに悪いことに、エルガーの「オラフ王」を指揮し、彼の作品を深く理解していた合唱指揮者スイナートン・ヒープが急死してしまったことも悪影響を与える。
 1900年10月3日、ハンス・リヒターによる初演は失敗に終わった。リヒターもまたスコアを理解するだけの時間も余裕もなかった。自信作の初演が惨憺たる結果に終わったエルガーは大いに落胆。しかし、先見の明をもつ一部の人間の努力により、彼の作品はドイツへと渡り思わぬ大成功をもたらす。指揮者ユリウス・ブーツ、劇作家バーナード・ショウ、作曲家リヒャルト・シュトラウスら、この作品がイギリスを代表する傑作になることを確信した、これらの人々の努力によりエルガーの作品は認められたのである。ドイツを席巻した「ゲロンティアス」は1900年6月6日、完成からちょうど3年目のロンドン凱旋によって、ようやく不動の評価を獲得したのだった。以来、ヘンデル「メサイア」、メンデルスゾーン「エリア」と並んで英国3大オラトリオと呼ばれている。さらにはエルガーが豪語した通り、彼の最高傑作の呼び名は高く、英国内では今日でも頻繁に演奏され続けている。

 

【作品の構成】
第1部
登場人物:ゲロンティアス(テノール)
     友人たち(混声合唱)
     司祭(バス)
 作品中の様々なモチーフを用いて荘重な序曲が全体の青写真を描く。序曲が盛り上がりを見せ、冒頭の不安げなテーマに戻ったところで、瀕死のゲロンティアスは死期が迫った恐怖のあまり祈りを乞う。それに呼応して友人たちも一斉に祈りの声をあげる。中間ゲロンティアスの歌う「Sanctus Fortis」で第一部のヤマ場を形成する。第一部の全体を支配するのは「不安」「恐れ」「病」といった重苦しい空気である。そんな暗い道筋に微かな希望を抱かせるかのように登場するのが司祭である。司祭の導きによって、ゲロンティアスは一旦穏やかな心を取り戻すとともにこの世から旅立つ。
第2部
登場人物:ゲロンティアスの魂(テノール)
     天使(メゾ・ソプラノ)
     悪魔たち、清霊たち、煉獄の魂たち(混声合唱)
     苦しみの天使(バス)
     神(管弦楽)
 別世界へ旅立ったゲロンティアスはもはや肉体を持たない魂と化している。ここで彼は天使に出会う。天使の導きに不安を捨てきれないままゲロンティアスはついて行く。そこでは醜い呪いの言葉を投げかける悪魔たちが、ゲロンティアスを堕落させようと攻撃をしかけてくる。天使の導きにより、これをすり抜けると、今度は清らかな霊たちの歌声を聞く。この壮大で崇高な響きに触れたゲロンティアスから「恐れ」が消え去った。そして、苦しみの天使から祝福の言葉を受けたゲロンティアスは、いよいよ「その時」を迎える。ほんの一瞬ながら彼は神の姿を垣間見たのだ。その瞬間、彼の内なるもの全てが浄化された。導きの仕事を終えた天使が、清霊たちとともに清らかな告別の歌を歌い曲は感動的に終わる。

 

隠された「12」という数字
 パーセル、ヘンデルなどの声楽作品の流れを汲む充実した英国音楽の伝統的な合唱の響きが、この作品の魅力の一つである。特に聴き所は第2部で歌われる悪魔の合唱と清霊の合唱の対比。片や、悪魔的かつ、下品に歌うことが望ましく、片や天国的かつ、清澄な響きで歌う必要があり、実に対照的な表現が求められている。この2つの部分を同じ合唱団が歌っていると聴衆に感じさせてはならない。合唱団のセンスと実力が試される勝負所でもある。更に第1部の終曲「汝ら神とキリストの名において進め」という司祭の言葉に臨終のゲロンティアスが導かれる個所も難易度が高く重要な部分である(75番)。
ここで合唱は「12部」に分かれ、それが「12小節」続く・・・。そう、この作品には「12」というキーナンバーが隠されている可能性がある。

 

ゲロンティアスの夢 隠された数字12

 

 この作品の各ブロックの配置はとてもシンメトリックな構成となっている。まず第1部はゲロンティアスによって歌われる「Sanctus Fortis」が核心部分となり、その前に歌われるゲロンティアスと友人たちの「Rousu thee」「Be merciful」と、その後のゲロンティアスと友人たちの「I can no more」「Rescuer him」という対になる関係に挟まれ、更にその前後にゲロンティアスと友人、司祭による「Jesu, Maria」「Kyrie Eleison」と「Novissima hora est」「Proficisera anima」という対の関係に挟まれる形になる。核心部分を中心に置いてそれを対になる関係の曲が、あたかも十字架を描くように挟んで配置されている。第2部も同様に、悪魔の合唱と清霊の合唱が対となり、これを核心部分としてやはりそれぞれ対になる関係の曲がそれらを挟む形になる。そしてそのように分けられたブロックの数は第1部と第2部合わせて11となり、これに序曲をプラスすると12になる(図参照)。12という数字はキリストの使徒の数。エルガーが一連の宗教作品作曲のキッカケとなったのが、リトルトン・ハウス校の校長F・リーヴの「キリストの使徒たちは、君たちと何ら変らぬ普通の人たちであった」という言葉であった。以来エルガーはキリストの使徒たちにまつわる作品の作曲を心に決めていた。実際、当初バーミンガム音楽祭から委嘱を受けた時に、彼は12使徒に関する作品を作曲しようと試みている。この時は時間的制約もあり、この試みは実現せず、代わりに「ゲロンティアスの夢」という作品に姿を変えたが、その3年後に彼は「使徒たち」を作曲し当初のプロジェクトを実行に移しているのだ。これらの隠された「12」は、この時実現できなかった12使徒プロジェクトの痕跡ではないだろうか。

 

 

Part 1.  
1 Prelude  

 

2 Gerontius Jesu, Maria'  
  Assistants Kyrie Eleison'        

 

3 Gerontius Rouse thee, my fainting soul'    
  Assistants Be merciful, be gracious'      

 

4 Gerontius Sanctus Fortis'      

 

5 Gerontius I can no more'      
  Assistants Rescue him'    

 

6 Gerontius Novissima hora est'    
  Priest and Assistants Proficisere anima'      

 

Part 2  
7 Soul of Gerontius I went to sleep'  
  Angel My work is done'        

 

8 Soul It is a member'  
  Soul/Angel A presage falls upon thee'        

 

9 Soul But harl'    
  Demons Low born clods of brute'        

 

10 Soul I see not'      
  Angelicals Praise to the Holiest'      

 

11 Angel Thy Judgment is now near'    
  Angel of Agony Jesu by that shuddering dread'      
  Soul I go before my judge'  

 

12 Soul Take me away'  
  Souls in Purgatory Lord, thou hast been our refuge'        
  Angel Softly and Gently'  

 

 

 

 合唱の壮麗な響き、ドラマティックなソロ、秘められた数字の謎、オルガンなどが加わった壮大な管弦楽など、このように、この作品の魅力は語り尽くせないほどのものがある。しかし多分に個人的見解を込めてこの作品の最大の聴き所を一点に絞るならば、第2部の終結近く、魂となったゲロンティアスが遂に「神」の姿を一瞥する決定的瞬間を管弦楽で表現した部分(練習番号120番=ここにも12という数字が!)であると、あえて断言する。ゲロンティアスの魂が「Take me away」と感極まって熱唱する直前で全曲中最大のクライマックスを迎える。この作品のスコア中、フォルテが3つついているのは、ここと清霊の合唱が最高潮に達する部分(74番)だけ。まるで仏陀(ゲロンティアス)が煩悩に打ち勝ち「悟り」を開いた一瞬のような奇跡を描写しているかのよう。様々な経緯を経て、ここに到達した時の感動は比類のないものである。

 
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