遂につかんだ名声

愛の音楽家エドワード・エルガー

ストコフスキーのエニグマ

エルガーの代表作であるエニグマ変奏曲のお勧めは?と問われた時、正直少し困ってしまう。
まず、その訊ねてきた人がエルガーという作曲家をどの位聴いているかによって答えがガラッと変わってしまうからだ。
あまりエルガーに親しんでいない層の人には、教科書通り(?)としてボールトやバルビローリあたりを勧めておけばファーストコンタクトとして問題ないかと思う。実際、録音が古いとはいえ、今もって同曲の名演奏として全く色褪せていないし、今後も色褪せることはないだろう。
しかし、初心者にファーストチョイスとして薦めてはいけないのであるが、部分的には物凄く優れていたり、また解釈があまりにも個性的過ぎるものがある。
それでもこれがまた素晴らしい演奏で、ある程度エルガーを聴き込んだ耳で接すると空前絶後の感動をもたらしてくれる。
一つがBBC響を客演した時のレナード・バーンスタイン盤だ。
この演奏は、最高記録を樹立するほど、歴代の演奏の中で最もスローなものだ。
あまりの遅さにBBC響のメンバーも異議を唱えたほど。今でも同団では語り草になっているほどだという。
それでも出来上がった録音は比類のないものである。正に一期一会の出会いだった。
もう一つが、レオポルト・ストコフスキーによる演奏だ。
ストコフスキーの場合、ご多聞に漏れずこの曲でも彼独自の編曲かわ入っているのでファーストチョイスに薦めるわけにはいかないという事情となっている。
しかし、音の魔術師ストコフスキーは、この作品の持つ絵画的側面を上手く音として成立させている。
正にこのエニグマという曲が、音楽による肖像画という特色があるので、ストコフスキーの得意とする手腕がこれでもかというくらい発揮された結果だろう。
特にニムロドに関して、あまり大きな声では言えないが、ことによるとバルビ、ボールトなどを差し置いてナンバーワンの名演ではないかと密かに思っている。
奇しくもバーンスタインもストコフスキーもエニグマの録音は、一種類しか存在しないのでディスクを求める際迷うことはないと思う。

 

ストコフスキーのエニグマ

ストコフスキーのもう一つのエニグマ

音楽評論家エドワード・ジョンソンはこう書いている......
ストコフスキーは長いキャリアの中で多くの存命中の作曲家を支持したが、エルガーもその一人だった。1911年、彼は交響曲第2番をアメリカで初演したが、地元シンシナティの批評家はストコフスキーを極端に敵視しており、「心地よいが、偉大ではなく、いかなる意味でも説得力がない」と酷評した。
ストコフスキーは1912年、全英プログラムで初めてエニグマ変奏曲を指揮した。シンシナティ・エンクワイアラー紙の音楽批評家は、スタンフォードの「アイルランド」交響曲を 「インスピレーションに欠ける 」と評し、コンサート全体を 「魅力に欠ける、ありふれたもの 」と評価した。
それでも、ストコフスキーはエニグマ変奏曲を高く評価しており、1929年にはエルガーに手紙を書き、彼の創作の行進曲「威風堂々」に感謝している。ストコフスキーは1972年、90歳のときにチェコ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するためにプラハを訪れ、ようやくエニグマ変奏曲を録音することができた。不運なことに、彼は旅の途中で負傷し、最初のリハーサルを欠席した。
しかし、彼は続行を主張し、コンサートはデッカによって「ライヴ」録音された。この作品はCPOにとってまったく新しいものだったが、指揮台に虚弱なマエストロがいたにもかかわらず、高い評価を得た。
翌年、彼はロイヤル・アルバート・ホールで、エニグマ変奏曲を知り尽くしたオーケストラ、ニュー・フィルハーモニアとエニグマ変奏曲を繰り返した。BBCはこの演奏を放送しないことにしていたので、ストコフスキーのアシスタントは、純粋にアーカイブのために、この演奏をステレオ・カセットに密かに録音するよう手配した。エニグマ変奏曲のこの演奏は、私がこれまで聴いた中で間違いなく最高のものだ」と『デイリー・テレグラフ』紙のマーティン・クーパーは書き、彼の言葉を『ガーディアン』紙のエドワード・グリーンフィールドも「最も華麗に響く演奏」と評した。ストコフスキーのアシスタントの計らいで不朽の名演となり、24時間、世界中の聴衆がYouTubeで聴けるようになったのは、なんと幸運なことだろう!

 

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