《ゲロンティアスの夢(The Dream of Gerontius, op. 38)》

クリスティアン・マチェラルのゲロンティアス

最近ドイツやイタリア、オーストラリアあたりでの《ゲロンティアスの夢》の演奏頻度が本当に顕著である。このライヴ映像は、2025年5月24日ケルン・フィルハーモニーにて収録された、クリスティアン・マチェラル指揮によるエルガー《ゲロンティアスの夢》

 

🎶 演奏者・編成
ジェイミー・バートン、メゾソプラノ
ジョン・フィンドン、テノール
デレク・ウェルトン、バスバリトン
ベルリン放送合唱団
WDR ラジオ合唱団
サイモン・ハルシー、合唱指導
WDR 交響楽団
クリスティアン・マチェラル、指揮

 

🏛 演奏の特色と評価
▶ 序曲〜Part 1(Prelude〜Jesu, Maria)
冒頭の序曲は陰影の濃淡が鮮やかに描かれ、聖劇的な高揚が序章から感じられる。Part 1では ジェイミー・バートンのメゾは深く息を入れた朗唱により、苦悩する Gerontius の魂を見事に表現している。聴衆はその身体を離れた魂の旅に強く引き込まれる。

 

▶ Part 2(Proficiscere 以降)
特に “Softly and Gently” の終幕は感情の余韻を生かした 温かで慈愛に満ちたテンポが印象的である。マチェラル の構築力と サイモン・ハルシーの合唱指揮は、死者が安らかに天へ昇る場面に相応しい 荘厳な静謐を見事に成し遂げている。

 

▶ オーケストラ&合唱のバランス
WDR ラジオ合唱団とベルリン放送合唱団は、音色のコントラストと統合感に優れ、合唱の混合音とオーケストラのダイナミクスが巧みに重なり合う設計。とりわけ第10曲以降、一体感が明瞭に高まり、天上世界と煉獄の対比が音響的に浮かび上がる。
▶ マチェラル の指揮スタイル
彼は歴史的詳説に縛られず、むしろ音楽そのものの語り口を信じて全体を統率しており、「叙情と儀式性」を巧みに交差させている。第2部中盤ではコーラスやソロの表現を緩急自在に操り、魂の成長と浄化が明示されているようであった。

 

 

マチェラル のこの最新映像は、英国作品の伝統を尊重しつつも、柔らかな表情と構成の明快さにより聴衆を“魂の旅”へ誘う新たな演出であった。ジェイミー・バートン、ジョン・フィンドン、デレク・ウエルトンの三者も揃って高い完成度を示し、今後の《ゲロンティアス》演奏においても、参考となる演出と解釈の指針を提供している。

 

現代指揮者による英国ロマン派の再構築として、十分に魅力と説得力を持つ記録であり、今後の公演や録音に期待が高まる演奏となっている。

 

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