遂につかんだ名声

愛の音楽家エドワード・エルガー

遂につかんだ名声

 

 

 この頃、合唱作品に情熱を傾けたエルガーであるが、「表題性のない絶対音楽こそ最高の芸術」と語っているエルガーにとって大規模な管弦楽作品の作曲こそ望みであった。1897年には、ヴィクトリア女王即位60周年を記念して《英国行進曲(Imperial March, op. 32)》を作曲。これは当時の風潮に合って、かなりのヒットとなった。しかしエルガーの望む成功とはかけ離れていた。また、これから「マーチのエルガー」というしがらみに縛られるようになり、そのしがらみとの長い闘いの始まりでもあった。
 1898年10月のそんなある夜のこと。エルガーはピアノの前に座り、アリスは編み物をしていた。エルガーは何の気なしに旋律を色々と弄んでいた。するとアリスが手を止めて「エドワード、それは何?」と聞いてきた。「何でもないさ。でもこれで何かできそうだ」 するとエルガーは別のパッセージを弾いて「誰を連想する?」と聞いた。「彼は、ピアノを弾く時、こうやってウォーミング・アップするだろ?」 それは正にエルガーとよく合奏を楽しんだ友人ヒュー・ステュワート・パウェルの仕草そのものであった。「じゃあ、これは?」と荒々しい別のメロディを弾いてみせる。「ビリーがドアを開けて出て行くところソックリだわ!」とアリス。それは軍人のウィリアム・ミューズ・ベイカーの威圧的な口調を表現したものだった。このようにエルガーは次々と友人たちの仕草を音楽で表現してみせた。アリスは言った。「あなたがしようとしていることは、誰もしたことがない全く新しいことだわ」。
 こうして1899年エルガーは42歳にて《エニグマ変奏曲》を作曲し、遂に作曲家として不動の名声を手にする。初演は、同年6月19日ハンス・リヒターの指揮によりロンドンのセント・ジェームズ・ホールで行われ大成功を収めた。この曲は曲中に描かれたそれらの友人たちに捧げられている。

 

 

〔参考CD〕
*《英国行進曲》 メニューイン指揮/ロイヤル・フィル
 この曲は「フォーリ」の庭先にあった「ニムロド」と名付けられたテントの中で作曲されたという。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/5c2eyk

遂につかんだ名声記事一覧

エニグマ変奏曲

  《エニグマ変奏曲(Variations on an original Theme "Enigma" op.36)》 エルガーは、この作品にいくつかの謎かけを残した。まずそれぞれの楽章が友人たちを表しているのだが、エルガー本人は「個人的な事柄なので公表する必要はない」と初演時のプログラムに書いてい...

≫続きを読む

 

スタンフォードの《レクイエム》と《エニグマ》の謎

 レイモンド・レッパードが1977年8月20日付の「The Times」で、スタンフォードの《レクイエム》の「ベネディクトゥス」のメロディが《エニグマ》のテーマに似ているので、この曲が《エニグマ変奏曲》の隠されたテーマではないかと、譜例を示しながら唱えたものである。しかし、スタンフォードとエルガーの...

≫続きを読む

 

「エニグマ変奏曲」第7変奏Troyte

 「エニグマ変奏曲」第7変奏Troyteのモデルとして知られているアーサー・トロイト・グリフィスはエルガーの数多い友人たちの中で最も長く交友関係の続いた人物の一人である。トロイトがスペインでの建築の勉強を終えて帰国した1896年頃からエルガー一家との交友が始まり、彼自身が没する1942年まで続いた。...

≫続きを読む

 

Elgar's Enigma~Hidden Portrait

および1982年BBC製作レナード・バーンスタインを招いての映像作品との比較 2004年に英国BBCで放映された「エニグマ変奏曲」をめぐるドキュメンタリーと全曲演奏を収めたDVD。ホスト役は指揮者アンドルー・デイヴィスが務めている。さすが作曲家の本国BBCでの製作だけに、一歩も二歩も切り込んだ内容で...

≫続きを読む

 

ガーディナー/ウィーンフィルによる「エニグマ変奏曲」

 2002年2月、ドイツグラモフォンよりサー・ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、ウィーンフィルによるエルガー作品がリリースされた。ウィーンフィルによるエルガーといえば、96年にショルティの指揮により「エニグマ変奏曲」が定期で取り上げられ、翌年に録音がリリースされたことがある。また、ノリントンが交...

≫続きを読む

 
このエントリーをはてなブックマークに追加

愛の音楽家エドワード・エルガー電子書籍はこちらからどうぞ

エドワード・エルガー 希望と栄光の国 愛の音楽家 エドワード・エルガー

ホーム RSS購読 サイトマップ

先頭へ戻る