愛の音楽家エドワード・エルガー

エルガーとヴォーン・ウィリアムズ

エドワード・エルガーとレイフ・ヴォーン・ウィリアムズの関係は、必ずしも師弟や親密な友人関係といった直接的なものではないが、20世紀初頭の英国音楽界における両者の立ち位置や相互影響を考える上で、極めて重要である。

 

 

エルガーは、イングランド音楽の復興を象徴する存在として19世紀末から20世紀初頭にかけて大きな成功を収め、特にオラトリオ《ゲロンティアスの夢》や《エニグマ変奏曲》、行進曲《威風堂々》などで国民的作曲家の地位を確立した。一方、ヴォーン・ウィリアムズはそれに続く世代に属し、フォークソングやトマス・タリスのような古英楽への関心を通じて、より土着的で牧歌的な英国音楽を構築していった。

 

直接的な接点として最も重要なのは、ヴォーン・ウィリアムズがロンドン王立音楽院で学んでいた頃、エルガーの存在がすでに圧倒的な威光を放っていたという事実である。ヴォーン・ウィリアムズ自身、エルガーの作品に対して一定の敬意を抱いており、若き日に書いた評論の中では、《ゲロンティアスの夢》を「現代における宗教音楽の傑作」と評価している。

 

しかし、両者の音楽的スタイルには大きな隔たりがあった。エルガーはドイツ・ロマン派の影響を色濃く受け、和声やオーケストレーションにおいてはワーグナーやシューマンの系譜を汲む。また、彼の作品にはしばしば中産階級的な上昇志向や帝国的スケールが反映されている。これに対してヴォーン・ウィリアムズは、むしろルネサンスやバロック以前の英国古楽や民謡に着目し、地域性と精神性に富んだ音楽言語を確立しようとした。

 

思想面でも、エルガーがカトリック教徒としての信仰に基づく作品を多数残したのに対し、ヴォーン・ウィリアムズはむしろアニミズム的・汎神論的な自然観を持ち、信仰というよりは人間の精神性を主題とする作品が多い。両者はともにオラトリオを作曲しているが、エルガーの《使徒たち》や《王国》が新約聖書の神学的構築に基づくのに対し、ヴォーン・ウィリアムズの《海の交響曲》や《ドナ・ノビス・パーチェム》は詩的・哲学的な世界観を反映している。

 

興味深いのは、エルガーが晩年、英国音楽の未来を託す相手としてヴォーン・ウィリアムズを名指ししたという記録が存在することである。これは、後継者としての信頼というよりも、英国音楽の多様性と進化を認めた証であろう。実際、ヴォーン・ウィリアムズは《ロンドン交響曲》や《田園交響曲》などにおいて、エルガー的なスケールを保ちつつ、より内面的で抽象的な音楽世界を築いた。

 

結論として、エルガーとヴォーン・ウィリアムズの関係は、対立ではなく継承と刷新の関係として捉えるべきである。エルガーが英国音楽を国際的な水準にまで高めた礎を築いたとすれば、ヴォーン・ウィリアムズはそれを内面的・精神的深化の方向へと導いた革新者であった。二人の存在によって、20世紀の英国音楽は形式と感情、伝統と革新の両輪を持つに至ったのである。

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