失意

愛の音楽家エドワード・エルガー

失意

 

 愛妻アリスの死は、エルガーの創作活動にとっては致命的な大打撃を与えた。以降目ぼしい作品を産み出すことはほとんどなくなってしまう。「セヴァーン・ハウス」の地下室で、生物学研究用に置いた顕微鏡を一人寂しく覗いて気を紛らわす毎日だった。作曲をする機会は減ったが、バッハやヘンデルの曲を編曲したり、ハンス・リヒターの後任としてロンドン交響楽団の指揮者としてタクトを握ったり、自作の録音を行うことにより芸術的なパッションを維持し続けた。翌1921年、いたたまれなくなったエルガーはこの家からの転居を決意する。戦争と愛妻の死という辛い体験をいつまでも引きずって生きていくわけにはゆかなかった。
 「セヴァーン・ハウス」を引き払ってロンドン中心部にあるセント・ジェームズの家へと転居する。セント・ジェームズ宮殿の近くでグリーン・パークのすぐ横にあるので、大都会ロンドンの中心地とはいえ静かな環境は保たれていた。
 1889年《エニグマ変奏曲》の初演が行われ、ようやく作曲家として認められた思い出のセント・ジェームズ・ホールが近くにあった。しかし、エルガーにとっては何もかもが全て過去の遺物としか思えなかった。彼の創造力の炎はアリスの死とともに燃え尽きようとしていたのだ。以降の作品は、まるで残り火のくすぶりを思わせるものがある。大作と呼べる作品はほとんどなくなり、小規模な作品が多くなる。その中でも1923年の組曲《アーサー王(Incidental music to Arthur)》は、比較的規模も大きく、エルガー独特の壮大なオーケストレイションが見られる。また、この曲は後に《交響曲第3番》にも引用される。

 

〔参考CD〕
*組曲《アーサー王》 ハースト指揮/ボーンマス・シンフォニエッタ
 今のところ唯一の録音。ウォルトンやRVWのような映画音楽的で壮大なオーケストレイションが楽しめる。本来ならもっと演奏されるべき曲だと思う。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/6ps7mu

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