希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)》4つのパターン

愛の音楽家エドワード・エルガー

希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)》4つのパターン

 

 

 《希望と栄光の国》というと4つの曲を指すことになる。1つ目は《戴冠式頌歌》の終曲に歌われるコントラルトと合唱によるオリジナルの形。
 2つ目は1902年に改作され独立した1曲で、歌詞も違う。紛らわしいことにこの2つ目のパターンは、1902年にエルガーが編曲したコントラルトと合唱で歌われる形と、1914年にアーサー・ファッグの編曲した合唱ヴァージョンがある。
 そして3つ目は《威風堂々第1番》の中間部に改作ヴァージョンの歌詞が歌われるもの。「プロムス・ラスト・ナイト」で行われているのは3つ目のパターンである。1914年という戦時下においてファッグの編曲による合唱ヴァージョンを受けて、愛国心をくすぐる曲相と歌詞から、《威風堂々第1番》の中間部に歌詞が入った形が自然と聴衆の間で広がったのではないだろうか? いつ、誰の編曲で始まったかという正確な情報はわからないのだが、「プロムス」での観客参加を最初に呼びかけたのは、マルコム・サージェントなので、彼の時代に始まったという推測は成り立つ。
 ただこれも、演奏上で数パターンある。歌詞をユニゾンで歌う場合と、《戴冠式頌歌》の《希望と栄光の国》のように4声のハーモニーで歌う場合がある。しかし実際のプロムス・ヴァージョンはまた少し違う。最初のトリオのピアノ部分はハミングして、繰り返しのフォルテ以降をユニゾンで歌う。ファッグ編曲の4声のハーモニーで歌うヴァージョンはオーマンディがモルモン教のために録音した演奏が1種あるのみ。
 4つ目として更に紛らわしいことに《威風堂々第1番》のトリオ部分のみをオーケストラで演奏する場合も《希望と栄光の国》と呼ぶことがある。エルガーが1931年のEMIスタジオの落成式で演奏し録音されたのが、このパターンである。紛らわしいついでに、本当はただオーソドックスな《威風堂々第1番》であるのに(つまり歌なし)《希望と栄光の国》と表記している場合もあるが、これは反則。ウッド指揮の「Sir Henry J. Wood conducts Proms Favorite」というCDがこのパターン。以下にそれぞれ演奏パターンのCDの紹介と整理するために表記してみた。

 

 

「希望と栄光の国」のパターン表

 

1.「戴冠式頌歌」の終曲
作曲年代  編成合唱部分歌詞作曲/編曲者サンプル備考
1902コントラルトと合唱4声のハーモニー(エルガー作)オリジナル ギブソン盤/レッジャー盤 

 

2.独立した1曲
作曲年代  編成合唱部分歌詞作曲/編曲者サンプル備考
1902コントラルトと合唱4声のハーモニー(エルガー作2)改作版エルガーエルガー盤1928年録音
1902コントラルトソロ 改作版エルガースロントン盤1908年録音
1902コントラルトと合唱 ソロと男声合唱改作版エルガーバット盤1930年録音
1902コントラルトソロ改作版 エルガーバルビローリ/フェリアー盤1968年録音/第2コーラス以降
1914合唱  4声のハーモニー(ファッグ編曲版) 改作版 ファッグヒコックス盤 

 

3.「威風堂々」第1番の中間部に歌が入る形
作曲年代  編成合唱部分歌詞作曲/編曲者サンプル備考
1902?1914?    合唱ユニゾン改作版 ウッド?グローヴス盤 
1902?1914?    合唱  ハミング+ユニゾン改作版 ウッド?A・デイヴィス盤 プロムス・ヴァージョン
1914?   合唱  4声のハーモニー(ファッグ編曲)改作版オーマンディ?オーマンディ盤 

 

4.「威風堂々」第1番の歌なし
作曲年代  編成合唱部分歌詞作曲/編曲者サンプル備考
1901歌なしなしなしエルガーエルガー盤「威風堂々」第1番の中間部のみ 1931年録音
1901歌なしなしなしエルガーウッド盤「威風堂々」第1番オーケストラのみのオリジナル

 

 

《戴冠式頌歌》終曲
1番
Land of Hope and Glory,
Mother of the Free,
How may we extol thee,
Who are born of thee?
Truth and Right and Freedom,
Each a holy gem,
Stars of solemn brightness,
weave thy diadem.

 

2番
Hark, a mighty nation
Maketh glad reply;
Lo, our lips are thankful,
Lo, our hearts are high!
Hearts in hope uplifted,
Loyal lips that sing;
Strong in faith and freedom,
We have crowned our King!

 

 

《希望と栄光の国》改作版トリオ部分の歌詞
Land of Hope and Glory, Mother of the Free,
How shall we extol thee, Who are born of thee?
Wider still and wider Shall thy bounds be set;
God, who made thee mighty, Make thee mightier yet.

 

〔参考CD〕
*行進曲《威風堂々》 デル・マー指揮/RPO
 オーケストラのみの5曲の行進曲集。最もオーソドックスな形。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/5gmqrm
*《戴冠式頌歌》 ギブソン指揮/スコッティッシュ・ナショナル管ほか 
 1902年に作曲された終曲にコントラルトと合唱のための《希望と栄光の国》を置いたオリジナルの形。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/6a3uy4
*《希望と栄光の国》 エルガー指揮/ロンドン響ほか 
 1902年に改作され独立した1曲のコントラルトと合唱によって歌われるヴァージョン。トリオの旋律は4声のハーモニーで歌われる。ただし《戴冠式頌歌》のものとは異なる構成。エドナ・スロントン独唱盤(1908年録音)は全曲ソロのみで、クララ・バット盤(1930年録音)は、合唱部分ソロとユニゾンの男声合唱。
*《希望と栄光の国》 ヒコックス指揮/ロンドン響ほか
 上記の曲を、1914年にアーサー・ファッグが編曲した合唱ヴァージョン。トリオの旋律は4声のハーモニーだが、ファッグの編曲。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/5zsbxo
*《威風堂々第1番》=《希望と栄光の国》 グローヴス指揮/ロイヤル・フィルほか
 《威風堂々第1番》の中間部に1曲に独立した方の《希望と栄光の国》の歌詞を歌うヴァージョン。この演奏はユニゾンで歌うヴァージョンで「プロムス・ラスト・ナイト」型にほぼ近い。
*《威風堂々第1番》=《希望と栄光の国》 A・デイヴィス指揮/BBC響 
 「プロムス」ヴァージョン。トリオの最初のピアノはハミングで、繰り返しのフォルテ以降をユニゾンで歌う。「プロムス」の実況中継。
*《威風堂々第1番》=《希望と栄光の国》 オーマンディ指揮/フィラデルフィア管 「Mormon Tabernacle Choir Album 23 All time Favorites」 (CBS FLC9030=カセット・テープ) 
 構成は上記2つと同じだが、トリオ部分をファッグ編曲の4声のハーモニーで、歌詞は改作ヴァージョンで歌う。オーマンディがモルモン教の礼拝のために録音したもの。原曲はエルガーで、合唱部分はファッグ、全体的なアレンジはオーマンディ(?)。
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/o4n2f6r
*《威風堂々第1番》=《希望と栄光の国》 エルガー指揮/ロンドン響 
 《威風堂々第1番》のトリオをオーケストラのみで演奏。

 

 

〔スコア〕
Amazon.comの短縮URL http://tinyurl.com/5g22bz 

 

 

 このように《希望と栄光の国》は、これだけ様々なヴァージョンがある。本来なら4番目のようなケースは《希望と栄光の国》と表示すべきではなく、単なる《威風堂々第1番》でいいはずなのだが、困ったことに作曲者のエルガー自身の録音が、そういう前例を作ってしまったので従わざるを得ないのである。発売されているCDなども、この点を正確に表記していないものも見受けられるので、本国の音楽ファンでも正確に理解している人は少ないのではないだろうか。《希望と栄光の国》と言った場合一般にはどれを指すかという点も実に難しい。本来《戴冠式頌歌》の終曲を指すべきで、それが厳格な意味では最も正確なところだが、やはり「プロムス」のパターンが最もポピュラーな形であると思われる。あるいは、大ざっぱにあのトリオの旋律が含まれている曲すべてを《希望と栄光の国》と一口で括ってしまう、というのが現状であろう。とすると、1927年にカナダの自治領60周年記念のために作曲された《オブリガート・フォー・カリヨン(Obbligato for Carillon)》も、《希望と栄光の国》のメロディに合わせて、オタワの平和の鐘によって演奏されたというから、この一連の仲間に入れなければならなくなってしまうのだが・・・。

 

 

=この曲にまつわるエピソード1〜
なぜ学校の卒業式で、この曲が演奏されるようになったのかという由来について=

 

 1905年エルガーは、アメリカのエール大学にて音楽博士の称号の授与を受けるために親友のサンフォード教授の招きで同大学を訪れている。その授賞式の席上で威風堂々第1番の演奏が行われた(アメリカ初演は1902年シカゴ)。以来、アメリカの大学や高校の記念すべき式典では、この曲が演奏されることが恒例となり、少しずつ浸透するようになった。この流れが近年になって日本にもやってきたようである。

 

 

 

 

希望と栄光の国        傑作の森

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