人生の転機・・・出会い

愛の音楽家エドワード・エルガー

人生の転機・・・出会い

 1886年10月6日、エルガー29歳の時に彼の人生に大きな変化を与える転機が訪れる。エルガーの教える音楽教室に後に妻となるキャロライン・アリス・ロバーツが入門してきたのである。アリスは、ヘンリー・ジー・ロバーツ陸軍少将の一人娘で、音楽好きの知性あふれる女性であった。彼女は地元の合唱団にも参加しており、その合唱団の伴奏を務めていたのがエルガーの参加する弦楽合奏団であった。そんな縁から2人は恋するようになる。
 1888年2人は婚約し、その記念としてエルガーは《愛の挨拶(Salut d'Amour op. 12)》を作曲しアリスへ捧げている。しかしアリスの親族が結婚を強く反対した。理由は、まず2人の身分の違いであった。アリスは名門出の陸軍少将の娘。片やエルガーは一商人の息子。おまけにプロテスタント系が主流の英国にあってエルガーの一家は少数派のカトリックであり、エルガーの人生においても宗教的に何かと不利な立場に立たされる局面があった。
 しかし2人は反対を押し切り1889年5月8日、ロンドンのケンジントンにあるブロンプトン礼拝堂で結婚式をあげる。エルガー32歳、アリスは40歳であった。ハネムーンをワイト島のヴェントノールで過ごした。
人生の転機・・・出会い

 

 そして2人は結婚後本格的な作曲家活動に打って出るために首都ロンドンへ転居する。最初、ケンジントンのマーローズ・ロード3番地、2ケ月ほどグレート・モールヴァンのラウダーデイル・ロード8番地(現在ザ・リーズ7番地)の「セイテルモウ」に戻り、次いでクリスタル・パレスに程近いアッパー・ノーウッド、そしてウェスト・ケンジントンのエイヴェンモア・ロード51番地へと落ち着いた。
 エルガーを作曲家として成功させることを決心したアリスの努力は涙ぐましいほどであった。世事の雑用にエルガーが惑わされることなく作曲に専念できるように何から何までこなしていった。また、写譜を引き受けたり、出版社に手紙を書いたりもした。後に娘のキャリスが母アリスについてこう書いている。「母は物書きになりたいという夢を諦めて、父の成功を助けることに誇りを感じていた」
 しかし現実は厳しいものであった。《愛の挨拶》の楽譜が売れた以外さしたる成功は収めることができなかった。といっても《愛の挨拶》の楽譜は買い取りで、エルガーはわずかの報酬を受けただけで、出版社のショットだけが大儲けしたに過ぎなかった。
 亡くなった両親の遺産を受け継いだアリスは、それを使って生活を維持していた。が、次第に底をついてきたので持っていた宝石を売り払ったが、それでも生活は苦しかった。
 そんなある日、コヴェント・ガーデンのプロムナード・コンサートでエルガーの曲を試演したいという申し出が届く。1884年に作曲した《セヴィリアの女》と1882年作曲の《組曲ニ長調(Suite in D)》が演奏されることになる。うまくいけば本番のコンサート曲目として取り上げられることになっていた。ところが当日エルガーはコヴェント・ガーデンの支配人から落胆すべくことを聞かされる。サー・アーサー・サリヴァンが突然何の前触れもなく来て、彼の新作オペラ《コンドラ漕ぎ》のリハーサルを行わなければならなくなってエルガーの曲を試演する時間がなくなってしまった、というのである。
 このエピソードには後日談がある。1898年、エルガーはサリヴァンと顔を合わせた折、この時のことをサリヴァンに話した。するとサリヴァンは「何だ、そんなことがあったのか。一言、君だと言ってくれれば、私は喜んで君に譲ってあげたのに」と述べている。
 しかし幸福な出来事もあった。1890年8月14日、エルガー33歳の時、一人娘のキャリス・アイリーンが誕生する。名前は母親のキャロライン・アリスから取って名付けられた。(娘が生まれる以前は、エルガーはアリスのことを「キャリス」と愛称で呼ぶことがあった)

 

〔参考CD〕
*《愛の挨拶》 グローヴス指揮/フィルハーモニア「グローヴス卿の音楽箱1」
 元はピアノのソロ曲だが、ヴァイオリン用やオーケストラ用に編曲されている。これはオーケストラ用で、グローヴスの親しげな笑顔を思わせるようなチャーミングな演奏。
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*《組曲ニ長調》=1899年に《3つの性格の小品(Three Characteristic pieces, op.10)》として改作。 マリナー指揮/ノーザン・シンフォニア「The Lighter Elgar」
 元々は4楽章の曲だが3楽章に編曲。ちなみにこの曲、《エニグマ変奏曲》第13変奏の候補の一人メアリー・リゴン夫人に献呈されている。
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