Elgar's Enigma〜Hidden Portrait

愛の音楽家エドワード・エルガー

Elgar's Enigma〜Hidden Portrait

 

 

および1982年BBC製作レナード・バーンスタインを招いての映像作品との比較

Elgar's Enigma〜Hidden Portrait

 

 2004年に英国BBCで放映された「エニグマ変奏曲」をめぐるドキュメンタリーと全曲演奏を収めたDVD。ホスト役は指揮者アンドルー・デイヴィスが務めている。さすが作曲家の本国BBCでの製作だけに、一歩も二歩も切り込んだ内容で優れたドキュメンタリーに仕上がっている。例えば、いまだモデルが特定されていない第13変奏に関しても、これまで通説であったメアリー・リゴン説だけでなく、元婚約者ヘレン・ウィーバー説をも同時に説明している点など新たな視点を取り入れている。第7変奏Troyteでは、トロイト・グリフィスの建築したオール・セイント教会がさりげなく写っていたり(説明は一切ないのが残念だが)、また実際のエルガーの姿を写したフィルムの数々を見ることができる。その他、一見ここに描かれているのは友人や夫人などに見えるが、実は全て作曲者エルガー本人の姿である、という新説(?)をも披露している。
 ドキュメンタリーではクリストファー・アドリントンがエルガーを演じて、新たに撮り下ろしているのだが、多分にケン・ラッセル製作の「エルガー」を意識したかのような作りである。実際に、1962年版と2002年版の「エルガー」の映像の一部を使用しているのだが、全く違和感なく溶け込んでいるのが見事である。新たに撮りおろした部分でクリストファー・アドリントンがエルガーを演じながらも、ピーター・ブレッド、ジョージ・マッグレイス(1962年版「エルガー」の俳優)、ジェームズ・ジョンストン(2002年版「エルガー」の俳優)という具合に、結果的に4人ものエルガー俳優が登場していることになる。さらには新たなイマジネーションを膨らませた映像を加えるなど斬新な演出も好材料。
 実は、BBCはこれまでにも、このような番組を製作している。その中でも1982年にレナード・バーンスタインをBBC響に招いて「エニグマ」を演奏した時のドキュメンタリーというのもあり、それと見比べてみても非常に興味深い。82年のバーンスタインとの番組では、リハーサルと本番の演奏が同時進行で進むというユニークな構成となっている。このバーンスタインとの番組では主に「エニグマ」の全体に隠されている主題について考察に重きを置いているが、今回の番組はそれぞれの変奏のキャラクター分析に比重を置いている感じ。20年前とは決して同じような番組構成となっていない。
 全曲演奏の方もデイヴィスの明快な棒さばきが冴え渡っている。特に第9変奏Nimrodでのクライマックスの盛り上がりはバルビローリと双璧を成す感動的な名演である。ウースター大聖堂での演奏は、本来作曲者が望んだシチュエーションなので、それを実現した形。ただ、終曲EDUでオルガンが使用されていないのが残念(オーケストラが演奏するスペースとオルガンのある場所が遠いため物理的に困難という事情のようだ)。
 オーケストラの演奏者も指揮者も、お互いにこの曲はそれこそ何百回と演奏してきたのだろう。例えば、指揮者デイヴィスが第11変奏G.R.Sをオケのメンバーに指示する時、「ジョージ・ロバートソン・シンクレア」と変奏のモデルとなった人物のフルネームを言った途端、すかさずオケのメンバーが一斉にスコアのそのページを開いている。このあたりに、この曲が彼らの体に染み付いているであろうことを物語っている。
 とても日本のNHKあたりではこれほど深い内容で、これほどの完成度のプログラムを望むことは不可能であろうと思わせる。しかし、それでもこのドキュメンタリーに1箇所だけ重要なミステイクがあるのが惜しい。「エニグマ変奏曲」を作曲した家を、あたかも「クレイグ・リー」であるかのような誤解を与える映像になっているのだ。「エニグマ」が作曲された家は「フォーリ」である。
 しかし、そんなことを差し引いても、エルガーを愛する者ならば、ぜひ手元に置いておきたいマストアイテムであることだけは間違いない。

 

 

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