エルガー交響曲第1番にまつわるエピソード
その1
尾高忠明はエルガー交響曲第1番の演奏回数が世界一多いそうである。。
個人的にエルガーの1番の生演奏の中でも最高の一番が、かつて尾高氏がBBCウエールズ響を率いての来日公演をサントリーホールでやった時である。
あれから何度も尾高氏の演奏する同曲を耳する機会があった。聴くたびに変化があったりする。
ある時、楽屋での雑談でそういうお話を尾高氏にしてみると、やはり本人もそのことは意識しているとのことだった。初めてこの曲を振った時、BBCウエールズ時代、そして札響との演奏、尾高本人の中でも格段に進歩を遂げているのである。「私もこの曲を演奏しながら成長しています」「あの頃とは解釈もだいぶ変わってきました」
尾高氏とお話してて印象深かったのは、英国のオケはこの曲を演奏しながらよく楽員が演奏中に涙を流すのをよく見かけるそうだ。その気持ちとてもわかるのだ。それほど素晴らしい作品だから。
その2
サー・コリン・デイヴィスがこれを演奏する時、オケの最後列に打楽器奏者が配置され、その前に金管楽器奏者が配される。その金管楽器奏者の背後にプラスチック製の防音壁が設置されるのをご存知だろうか?たぶんほとんど知られていないし、このことに気づいている人はごくわずかだろう。もしデイヴィスのこの曲の実演を聴く機会があったら確かめて見て欲しい。
なぜか?打楽器の音がもの凄いのだ。金管楽器奏者の鼓膜が破れるのを防ぐためなのだ。
特にスケルツォ。実際に聴いてもらえばその凄さがわるはず。CDでも十分に確認できる。特にロンドン響とのライブやバイエルンでのライブ盤がすごい。この部分を聞けばサー・コリンの演奏だと一発でわかるくらいである。
その3
この作品は、左右両翼のオケ編成で演奏されるべきである。
なぜか?
この曲は左右に分かれた第1と第2ヴァイオリン奏者が掛け合いをする場面が多い。
つまり右側のヴァイオリンの音がそのまま左側に受け継がれて、次にはその逆があったりと、
それを楽しむのはこの曲の醍醐味の一つである。
この効果を出すためには、俗にストコフスキーシフトと呼ばれるオケ編成ではダメなのである。
けっこう、オケの配置を気にしないで演奏してしまうケースが多いが非常に残念なことである。
エルガーはこの効果を期待してこの曲を書いたのであるから。
またこの曲を演奏したことのある人は知っていると思うが、スコアには「LastDeskOnly」と書かれている部分がある。
練習番号48番あたりのことである。
つまり、例えばヴァイオリン奏者の最後の列の人だけがモットー主題演奏しなさい・・・という指示である。
ここも音量のバランスを指揮者が意識しないと、重要なモットー主題が聞こえなくなってしまう。
エルガーのこの曲にはこういう仕掛けがけっこう多いのである。
それを知った上でこの曲を鑑賞するとより楽しく聴くことができるであろう。
その4
交響曲第1番は映画「グレイストーク」(1984)のオープニングでエルガーの交響曲第1番が使われてる。
非常に印象的で効果的な印象である。
エルガーの曲は色々な映画などで頻繁に使用されることがあるが、数ある中でも最も印象的な使用例の一つであろう。