Elgar-Fantasy on a Composer on a Bicycle

愛の音楽家エドワード・エルガー

Elgar-Fantasy on a Composer on a Bicycle

ケン・ラッセルのElgar-Fantasy on a Composer on a Bicycle

 

2002年9月22日ITVにて放映South Bank Show

 

 

【Synopsis】

 

Part. 1
 旧作と同様、「序奏とアレグロ」をバックにエルガーが自転車でモールヴァン・ヒルを走る。ケン・ラッセルのナレーションにより作曲者の生まれと幼少時代が語られる。エルガーの最初の作品「ユーモレスク・ブロードヒース」が紹介される。これは巨人と妖精たちを描いた作品で、巨人に扮した子どもたちの楽隊がミニチュアの街を行進し、可愛らしい妖精たちが木々の間を飛び回る。この作品は、今日「子どもの魔法の杖」第1組曲の「妖精と巨人」という曲として聞くことができる。
 エルガーとアリスの出会いから婚約の過程が語られる。曲は「夢見る子どもたち」第1曲目。そして、ハネムーンとしてワイト島を訪れる二人。バックには「愛の挨拶」の美しい調べ。そして、アリス作詞による組曲「海の絵」から「港にて」。仲むつまじく雨が降る窓の外を眺める二人。
Part.2
 ロンドンでの失敗からモールヴァンへと戻った一家。「弦楽セレナード」第2楽章が流れる中、生れたばかりの娘キャリスが寝ているベビーカーを押す二人。エルガーと娘キャリスの交流、2人で凧揚げを楽しむバックには「序奏とアレグロ」。
 エルガーは作品創作の過程において、様々な女性たちから影響を受けた。「エニグマ変奏曲」第10変奏Dorabellaで描かれたドーラ・ペニーもその一人。彼女がエルガーを訪ねてフォーリへとやって来る。二人の親密な仲を妬ましく見つめるアリス。
 「エニグマ変奏曲」第11変奏GRSで登場するブルドックのダンが紹介される。そして、エルガーが唯一その意味を解き明かさずに終わった「エニグマ」第13変奏に関して、エルガーの元婚約者ヘレン・ウィーバーを紹介。ミレーの作品「オフェーリア」を思わせる映像で、彼女の死を暗示する。
 エルガーが影響を受けた女性として、キャリスの通う学校の校長ローザ・バーリーとエルガーとの交流が描かれる。組曲「子ども部屋」での「荷馬車の通過」が流れる中、サイクリングをしていた二人があやうく転倒。足をケガしたローザをいたわるエルガー。曲は「ファルスタッフ」から間奏曲。
 さらにノヴェロ社に勤めており、初期のエルガーの作品出版の際に大きな手助けとなった友人アウグスト・イェーガーとの交流が紹介される。曲は序曲「コケイン」。
 ヴァイオリン協奏曲第3楽章カデンツァに乗って、もう一人、エルガーが大きな影響を受けた女性ウィンドフラワーの登場、幻想的な踊りを披露。ウィンドフラワーは本名アリス・ステュワート・ワートリー、ラファエル前派ジョン・エヴァレット・ミレーの娘。特にヴァイオリン協奏曲など作曲の際、大きなモチベーションとなった存在。
Part.3
 メリット勲章などの称号を手にしたエルガーがアリスに手伝ってもらって着飾っている。「エニグマ」第1変奏のCAEはアリス。「エニグマ」第14変奏EDUはエルガー自身が描かれている。2人を表す変奏がBGMとして流れる。
 しかし、第一次世界大戦はエルガーの心に深い傷を負わせた。交響曲第2番第3楽章の奇妙なスケルツォに合わせて、エルガーが夢の中、手探りで歩き絶望する。
 世間を避けるようになったエルガーは山荘のブリンクウェルズにこもり室内楽に取り組む。「威風堂々」第1番のトリオに乗って、弦楽四重奏団がエルガーの家に到着。彼らは「弦楽四重奏」第2楽章をエルガーに聴かせる。不吉な予感に襲われるエルガー。
 棺に横たわるアリスの亡骸に勲章を入れるエルガー。チェロ協奏曲第1楽章が彼女へのレクイエムのように響く。
 彼女の身代わりのようにエルガーは犬を可愛がる。エルガーの傍らで食事する愛犬ミーナ。BGMはエルガーが生涯最後に作曲した「ミーナ」。

 そして、エルガー自身の死が語られる中、「ゲロンティアスの夢」から序曲の冒頭、「Sanctus Fortis」。場面はウースター大聖堂。エルガー、ドーラ、ヘレン、ウィンドフラワー、アリスの顔が回想される。
 曲は「エニグマ変奏曲」第9変奏ニムロドに切り替わり、エルガー(の亡霊?)が彼のゆかりの地を自転車で訪ねて行く。グレート・モールヴァン→バースプレイス→ウースターの街→ウースター大聖堂→モールヴァン・ヒルへと・・・・。
 エンディングは「愛の挨拶」。
Elgar-Fantasy on a Composer on a Bicycle

 

 

 

【解説】

 

 1962年に「ある作曲家の肖像・エルガー」を製作したケン・ラッセルは、旧作から数えて丁度40年目にして、「エルガー」のリメイク版を製作。2002年9月22日、ITV系でサウスバンクショーとして英国で放映された。
 エルガー役はジェームズ・ジョンストン、アリス役はエリズ・ラッセル、イェーガー役はリチャード・スウェルンで、メルヴィン・ブラッグの提供、ナレーターはケン・ラッセル自らが担当している。
 旧作同様、モールヴァン地方の美しい風景が心に残る鮮烈な映像が繰り広げられる。やはり、旧作と対比しながら見ると興味深いだろう。旧作同様出演者は一切セリフを話さず、ラッセル自身のナレーションによって進行するが、ナレーションはごく控え目で、まるでプロモーション・ビデオか幻想的なバレエ映像を見るよう。
 旧作との対比を意識させる映像が数多く、例えば、モールヴァン・ヒルでエルガーが娘アリスと凧上げを楽しむ場面では、その凧の形状が旧作と全く同じ形で、カメラアングルも一緒。そして、エルガーがボートでセヴァーン川を進む場面では、川岸で少年が釣りをしているのだが、その場面は正に旧作での冒頭場面そのものなのだ。
 特に興味深いことは、ラッセルが前作で犯していた考証の誤りに関して、一つずつ訂正作業を行っている点である。まず、旧作で左利きとして描かれたアリスは、今回右利きに訂正されている。旧作で、エルガー最初の作品として「花ことば」が紹介されていたが、新作では「ユーモレスク・ブロードヒース」(=後に「子どもの魔法の杖」1番の「妖精と巨人」になる。)に訂正されている。旧作で晩年のエルガーは大型犬を飼っていたが、今回史実通り小型犬になっていた。また、旧作での「エニグマ変奏曲」の紹介場面、エルガー自身を描いた曲として第7変奏Troyteが紹介されていたが、今回は正しく第14変奏EDUに訂正されている。
 旧作のテーマが「エルガーの内面に介在する葛藤」であったのに対して、新作のテーマとして「女性たちとの関係」に多くスポットをあてている。しかし、この作品の評判は、実のところ英国のエルガーフリークスの間ではあまり芳しくない。それは、エルガーと女性たちとの関係の描写が不適切だからであろう。エルガーの作品に影響を与えた女性として、アリス以外にドーラ・ペニー(「エニグマ変奏曲第10変奏Dorabella」)、ヘレン・ウィーバー(「エニグマ」第13変奏の候補でエルガーの元婚約者)、ローザ・バーリー(娘キャリスの通う学校の校長でエルガー一家と親しかった)、アリス・ステュワート・ワートリー(ウィンドフラワー=エルガーと生涯に渡って熱い友情で結ばれていた)が登場する。ラッセルは、その中でも特にドーラをエルガーの愛人のように露骨に描いているのだ。更にその描写の仕方にも問題がある。エルガーが彼女のお尻をムンズと掴みブランコを押したり、スカートの中を見せたりという具合。それを見たアリスが嫉妬する。史実的にも「?」である。もし、ドーラがエルガーと愛人関係にあったとしたら、もっと、とんでもないほどヤヤコシイことになっていたはず。ドーラは「エニグマ」第2変奏で描かれているリチャード・パウェルと後に結婚している。パウェルは「エニグマ」第12変奏で描かれたチェリストのバジル・ネヴィンソンとエルガーでトリオを組んでよく演奏していた人物。そうすると、エルガー、アリス、パウェル、ドーラというように四角関係になってしまう。ドーラではなくウィンドフラワーの方をこのように描写した方がまだ史実に近いと思う。また、ドーラを登場させるくらいなら、むしろ、ジュリア・ワーシントン、メアリー・リゴン、ヴェラ・ホックマンらを登場させた方がふさわしいはず。
 また、ヘレンの死を暗示させるイメージを描写しているが、実際彼女が死んだのはずっと後の1927年のこと。それにウィンドフラワーのイサドラ・ダンカン風の描写も妙に艶かしすぎる。ブルドックのダンがまるでエルガーの飼い犬のように描かれているが、実際はヘレフォード大聖堂のオルガニストのシンクレア(「エニグマ」第11変奏)の飼い犬である。それにイェーガーの紹介場面が、なぜ「コケイン」なのか?イェーガーはノヴェロ社の人間であるのに対して、「コケイン」の出版社はそのライバルであるブージー・アンド・ホークス社である。もしイェーガー本人がこの映像を見たら何と思うだろうか?この辺りは、ラッセルの思慮が足らない部分でもあり、憶測で構成している部分もありそうだ。事実、旧作でも特に史実を確かめずに(1962年当時は資料が乏しかったため)ラッセル自身の憶測で撮影を行った部分も多々あるとマイケル・ケネディとの対談で述べている。こういうことも含めて、意外にラッセル自身、エルガーその人に関して不勉強な一面がある。例えば、ケネディとの対談で明かしているように「戴冠式頌歌」の存在を知らなかったりする。
 交響曲第2番のスケルツォをバックにエルガーが夢見るシーンは、抽象劇「エルガーのロンド」を思わせる錯綜したケン・ラッセルならではの映像効果が見事で印象的なシーンに仕上がっている。また「ユーモレスク・ブロードヒース」の場面、ミニチュアの街を行進する巨人に扮する子どもたちと妖精たちの愛らしい舞いの場面は、エルガーの創造の源となった幼少時代のインスピレーションとファンタジーを視覚的に表現することに成功している。そして、ラッセルは「エニグマ変奏曲」第13変奏については、ヘレン・ウィーバー説を打ち出している。
 最後にエルガー本人が自転車でエルガーゆかりの地をめぐる場面は何とも微笑ましい。最初にグレート・モールヴァンのベルヴュー・テラスにあるエルガー像の前を通り(ケン・ラッセルがチラッと出演している)、プライオリー公園を横切り、バースプレイスを訪れ、ピアノを懐かしげに眺める。そしてウースターのハイ・ストリートのエルガー像の横を通り、ウースター大聖堂の中へ入っていく(ウースター大聖堂内部は撮影許可が降りなかったのか、内部の映像はモールヴァン・プライオリーである)。最後に冒頭と同じくモールヴァン・ヒルへ登る。
 かなり手厳しくレヴューしたが、ここには40年に渡るケン・ラッセルのエルガーに対するオマージュが随所に溢れており、貴重なドキュンメンタリーであることには間違いない。

 

 
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