大友直人指揮、東京交響楽団エルガー交響曲第2番備忘録(2023)
2023年1月29日
大友直人指揮、東京交響楽団エルガー交響曲第2番備忘録
大友さんのエルガー交響曲第2番を初めて聴いたのが1997年。以来氏の指揮する同曲はほとんど会場に足を運び続けてきた。
その20年以上に及ぶ経過をリアルタイムで見続け、聴き続けてきた。
今回もまた過去と同じような仕上がりの純度が極めて高い。
P席から見る指揮者の動作。
いつも以上に煽りに煽った大友さんの指揮姿がよく見えた。
彼の左手が雄弁に曲想を指示するのが大きな特徴。
抑制と解放の落差が大きいのが大友直人という指揮者のカラーである。オケが高揚のあまり盛り上がりたい!という時に「まだだ!」と左手で抑える。
そして、溜めて溜めて一気に煽る。
延ばすところは延ばし硬くするところは思いっきり固める。
それだけに解放した瞬間の爆発力が凄い。
昔は指揮棒を持って指揮していた大友さんだが、ある時肩を痛めてしまい、以来指揮棒を使わなくなった。
指揮棒を使わなくなったあたりから特に左手での表現や指示が雄弁になった気がする。
しかし全体のバランスは常に冷徹なコントロール下に置かれている。
演奏の出来上がりがバルビローリに似ているのはそのためだ。
今回の煽りも凄かった。
ただいつもと少し違う点もいくつか見受けられた。
たとえばいつもならもっと煽っていた第2楽章の86番など今回はやや控えめだったといえる。
第1から第3楽章まではやや速めのテンポ設定で、第4楽章に入るとグッとテンポを落とすやり方はいつも通り。
それはいみじくも大友さん自身が語っていた「それまでの50分間は最後の10分間のためだけにある」という発言が物語っている。
くしくも作曲者のエルガーがバルビローリに同じことを言っているからだ。「本当の音楽は155番以降から始まる」
以前、大友さんと話をしていて、その最後の10分間・・・という発言を聞いた時に、エルガーとバルビのそのエピソードを大友さんに伝えたところ大友さんはそのエピソードをご存じなかった。
「やっぱりそうですか」とおっしゃっていた。
ということは誰に聞いたわけでもないのに作曲者と同じ考えを持っていたということになる。
それこそエルガーのこの曲を演奏するに最もふさわしいインタープリターが誰なのかを物語っている。
そして、今日一番驚いたのが149番のトランペットの処理だ。
大友さんは一貫して慣例通り2小節延ばしを徹底してきた。
楽譜上は1小節だが2小節延ばすのが慣例となっており、約9割の演奏は2小節延ばし。
しかし、今日初めて楽譜通り1小節切りパターンで演奏したことだ(私の聴き間違いでなければ)。
かつて尾高さんはこの部分に関して「どちらのパターンも試したことがある」とコメントしていたので、大友さんとしても初めてトライしてみたのかもしれない。