再びロンドンへ

音楽家の告白 ― スラットキンとリーバーソンが描いた〈音楽の作り手たち〉(BBC Proms 2004)

2004年のプロムスで披露されたレナード・スラットキン指揮による《ミュージックメイカーズ》は、彼の長きキャリアの中でも特に意義深いエルガー解釈のひとつである。
ソロにはロレイン・ハント・リーバーソンを迎え、BBC交響楽団と合唱団による大規模な布陣。テキストはアーサー・オショーネシーのOdeに基づく、芸術家の孤独と使命を歌う作品だが、スラットキンの手にかかると単なる祝祭曲ではなく「音楽家の人生告白」のように響いている。

 

冒頭の曖昧な和声からすでに、スラットキンは弦楽器にしっとりとした深みを与え、響きを曖昧にしないまま柔らかく保つ。テンポは速すぎず遅すぎず、透明な構築感が全曲を支配する。彼が英国音楽に長年注いできた愛情と理解が、アメリカ生まれでありながら完全に「英国的」な響きを創出していたことに驚かされる。

 

リーバーソンのソロは、しっとりとした情感と凛とした存在感が共存しており、歌詞にこめられた「孤高の音楽家の運命」を象徴するかのよう。スラットキンは彼女の声を決して覆い隠さず、オケと合唱を細やかにコントロールして支える。その結果、エルガーの自伝的とも言われるフレーズの一つひとつが、聴衆にまっすぐ届いた。

 

特筆すべきは終盤のクライマックスから余韻に至る部分である。多くの演奏が感傷的に流れがちな箇所を、スラットキンは決して甘美に溺れず、明確に構造を見せながら堂々と積み上げる。そのクライマックスの輝かしさは、まるで「音楽家たちの魂」がひとつに結実する瞬間を見ているかのようであった。

 

スラットキンは現在、エルガー演奏を担うマエストロの中でも最高齢に属する。だがこのプロムスでの音楽には老境の翳りではなく、むしろ円熟した確信と生命力が宿っていた。アメリカから英国へ渡り、長年英国音楽の普及に尽力してきたスラットキンの歩みそのものが、《音楽の作り手たち》という作品に重なり合う。単なる演奏会ではなく、彼の人生とエルガーの精神が共鳴し合う「告白」であった。

 

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