カリーナ・カネラキスのゲロンティアス
最近、非英語圏で「ゲロンティアスの夢」の演奏が飛躍的に増えているが、このUtrecht公演はその象徴的例である。カリーナ・カネラキスとオランダ放送フィルハーモニー管弦楽団は伝統の英国オラトリオをオペラ的なドラマとして再構成し、Elgar本来の情感を国際的なステージで再評価させた。
🔥 オーケストラと指揮の特色
序奏はやや急ぎすぎた感もあるが、チェロやヴィオラのドットリズムを余韻として大事にする一方、全体の推進力を確保している。
カリーナは「マラソンではなくドラマ」としてテンポを操作したが、その試みには賛否あり、“ebbing & flowing=満ち欠け”という英国的アプローチを目指したことが伝わってくる。
🎙 合唱とソリストの起伏
セバスティアン ・コールヘップ(テノール=Gerontius)は情感を込めていたが、テンポ調整との折り合いにはやや苦戦していた印象。一方、ロデリック・ウィリアムズ(バリトン=Angel of the Agony)がテンポを牽引し、救いの瞬間を作り出す場面では共演者を圧倒する存在感だった。
カレン・カーギル(メゾ=Angel)による第2部は神秘的かつ情熱的で、一日の内での感情曲線を美しく描き、低音域の表現にも深い印象を与えた。
💡 総評と再評価の潮流
演奏全体は“オペラ的”な演出のもと、英国オラトリオの土壌を尊重しつつ、曲が本来持つ心理劇的側面を引き出している。
録音だけでは伝わりづらい「空間・テンポ・表現の波」を乗りこなすためには、Canellakisのような指揮者が海外にも必要とされている。これは今までは英国中心でしか成立しなかった「ゲロンティアス」の普及を広げる一助となろう。
今後、このような解釈と規模の演奏が世界中で続くのか、大きな注目点だ。
このUtrecht公演は、非英語圏での「ゲロンティアス」再評価の先駆け的名演である。演出とテンポへの大胆な仕掛け、豪胆かつ繊細な合唱とソロ構成。全体として、本作を古典的枠を超えた「現代の精神劇」として鳴らす意欲に満ちていた。今後の国際舞台での展開が期待される、画期的な演奏である。
Edward Elgar - The Dream of Gerontius, Op. 38
The musicians:
Radio Philharmonic Orchestra
Netherlands Radio Choir
Karina Canellakis, conductor
Edward Ananian-Cooper, choir conductor
Sebastian Kohlhepp, tenor (Gerontius)
Karen Cargill, mezzo-soprano (Angel)
Roderick Williams, baritone (The Priest/Angel of the Agony)
Recording:
AVROTROS Vrijdagconcert on the 13th of June 2025 in TivoliVredenburg, Utrecht.
参考までにここ最近の非英語圏における「ゲロンティアスの夢」の演奏例。
1.2023年4月29日、ローマの聖パウロ大聖堂(Basilica Papale di San Paolo fuori le Mura)においてサイモン・オーバー指揮(イタリア)
2.2025.4.11 尾高忠明指揮、大阪フィルハーモニー(日本)
3.2025年5月24日ケルン・フィルハーモニー、クリスティアン・マチェラル指揮(ドイツ)
4.2025年6月13日チボリ・フレデンブルク、ユトレヒト。カリーナ・カネラキス指揮(オランダ)