愛の音楽家エドワード・エルガー

愛の音楽家エドワード・エルガー

エルガーのヴァイオリン協奏曲2023その②

 

東京交響楽団 川崎定期演奏会 第92回

 

ミューザ川崎シンフォニーホール

 

2023年07月15日(土)

 

 

出演
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:神尾真由子

 

 

採点曲目
エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 op.61
ジャッジペーパー

 

 

Conductor=Excellent=5
Solist=Very Very Good=4.5
Orchestra=Excellent=5
Seat Location=Avarage=3
Pablicity=Avarage=3
20.5/25点満点
82%/100

エルガーのヴァイオリン協奏曲2023その②

 

 

「神はやはり降臨した」
「ボトルネックと思われたものが実は必殺兵器だった」
「奇跡は起こるべくして起きた」
「この年のエルガーラッシュのトドメの一撃炸裂!」
今回の演奏をスポーツ新聞の見出し風にキャッチフレーズをつけるとしたら、思い浮かんだのが上記のようなコピーだ。
もうこれらのコピーだけで全てを物語っている。
今のジョナサン・ノットをすれば奇跡が起こることは十分考えられた。
ちょうど5年前の「ゲロンティアスの夢」の神のようは演奏の再現のようであった。
ジャッジ項目を一つづつ検証したい。
Conductor=Excellent=5
ノットのエルガーは今や世界最高峰のクオリティに達しつつあるといえるだろう。
5年前の「ゲロンティアス」。
あの時、ほぼ全てのレビュー(プロアマ問わず)が「ゲロンティアス」に関してこうコメントしていた。
曰く「ワーグナーのトリスタンとイゾルデを思わせるオーケストレーション」だの「パルシファルの影響を受けた音色」
口々にワーグナー的オーケストレーションの影響うんぬん・・・ばかり。
その昔、どこかのライターさんがそう書いたのだろう。
それを孫引きした多くのライターや演奏家や、ブロガーが続いたものだからああいうことになったのだろう。
確かに、エルガー作品におけるワーグナー的オーケストレーションの影響は事実である。
しかし、それってコース料理でいえば前菜でしかない。
なぜだれもメインディッシュの話をしない?なぜ前菜だけの話で終わる?
要するに日本におけるエルガーの需要度はそんなレベルだということだ。
そんな中で唯一ジョナサン・ノットだけは違った。
「オーケストラは神を表現しています」
この発言を聞いたからこそ彼が本物のエルガーインタープリターであることを確信した。
エルガーがゲロンティアスに込めた核心的動機。
それは彼の信仰心の総決算であるから。
あの作品は「儀式」なのであるから。
そこに気付いているからこそ、あの儀式的な名演を実現することができたのだ。
「わかっている人」と「わかっていない人」の差はそういう発言として表れてくる。
このヴァイオリン協奏曲にも同じようなことがいえる。
エルガーが作品に込めた核心的動機に気付いて寄り添っているか、いないか。
この差はとてつもなく大きい。
この協奏曲は別名をつけるとしたら「ウィンドフラワー協奏曲」だ。
最初から最後までそこかしかにウィンドフラワーことアリス・スチュワート・ワートリーが現れる。
この頃のエルガーの作品生成の最大の原動力。
そして、複雑で狂おしいほどの愛情と情熱。
この感情をこれでもかこれでもか!と音に込めた作曲家。
かのメニューインが言っていた。
「あの第二主題が愛情表現であることを、若すぎた当時の私は理解していなかった。しかし、それを理解した今だからこそあれよりももっと良い演奏ができると思う」
この愛情表現をノットのアプローチはピアニッシモとして表現し、それを武器にしたこと。
そしてそれをソリストとオケにも徹底していたこと。
これでベクトルが完璧に同じ方向に向く結果になった。
正に幸福な出会いの瞬間だ。
最近聴いた同曲の実演を振った指揮者である高関健、沖澤のどか。
比較するのは失礼かと思うが、現時点でのジョナサン・ノットと比較されたのでは勝負にならない・・・・。
Solist=Very Very Good=4.5
「ボトルネックと思われたものが実は必殺兵器だった」
「奇跡は起こるべくして起きた」
この2つのキャッチコピーは神尾真由子のことを言っている。
もともとこの国では極端に演奏頻度が低いエルガーのヴァイオリン協奏曲。
それでなくとも神尾にとっては初めての取り組み。
キャリアを見ても英国音楽やエルガーへの特別なシンパシーがあるような痕跡もない。
多くの場合、あまりよい結果にならないという事例をいやというほど見てきた。
だから「ボトルネック」と表現とした。
指揮者とオケがエルガーのスペシャリストだが、ソリストはフタを開けて見なけらばわからない状況。
期待半分不安半分の中での演奏だったわけだ。
最初の出だし。
9番、フォルテの指定と書かれたC。
フォルテの文字を真に受けてここを強めに出る演奏の多いことか。
アウト!である。
このフォルテは「強く」とか「音量大き目」ではない。
その上に書かれたmolto largamente nobilmenteの方が遥かに重要視される。
この場合の「フォルテ」は「強く」ではなく「豊かに」とか「温かく」といった方が相応しいだろう。
なおかつ高貴にnobilmenteである。
nobilmenteが優先できないのなら、ディナーミックを一段落とす方がよいくらいだ。
神尾の一音はまさにこれだった。
羽毛で撫で上げるような優しさでいて、温かく豊かな音色。
これ、誰かに似ていると思った。
ヒラリー・ハーンである。
正にハーンの場合も今回の神尾のケースと似たところがある。
すなわちハーンもまた特別にエルガーとのシンパシーがあるような痕跡がキャリアに見当たらない。
にもかかわらず、あの超名演である。
だから「奇跡」という言葉をキャッチに思い浮かんだ。
楽章が進んでも神尾のこの表現は一歩たりとも緩むことはなかった。
本当にヤバいものに立ち会ってしまった。
先日聴いた三浦も竹澤も決して悪くないのだが、やはり今回は比較されるには相手が悪かったとしか言いようがない。
Orchestra=Excellent=5
エルガー作品の演奏回数の経験値日本一の東響。
今回も安定の安心感。
久々に見せた両翼配置。
ここに今回の演奏にかける指揮者、オーケストラの本気を見た思いだ。この時代の作曲家ブラームスもエルガーもこの配置しか知らないわけで、この配置を想定して作曲をしている。
木管やヴィオラ、チェロなどの中間音色を中心に外枠を組み立てる音色。
ノットの棒に導かれるピアニッシモの死にそうなほどの美しさ。
最高の仕事を成し遂げてくれた。
Seat Location=Avarage=3
Pablicity=Avarage=3
この2項目に関してはジャッジに影響することないものだった。
つまり他責要素である。
自責要素だけ見ればほぼ満点という空前絶後の演奏評であったことがわかるだろう。
だから
「この年のエルガーラッシュのトドメの一撃炸裂!」
なのだ。
この日本でこの曲の決定版的名演奏が出るなら、尾高忠明、加藤知子、札幌交響楽団の組み合わせだろうと予想していた。
実際、尾高もこの組み合わせでの同曲の演奏実現を希望していた。結果的にこれが叶わなかったが、これに匹敵するくらいの名演の誕生を素直に喜びたい。

 

エルガーのヴァイオリン協奏曲2023その②

 

 

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