愛の音楽家エドワード・エルガー

愛の音楽家エドワード・エルガー

大友直人のエルガー1番(2024)

 

 

2024年7月8日

 

東京オペラシティ

 

 

 

大友直人指揮、東京交響楽団

 

エルガー:交響曲第1番

 

 

 

ジャッジペーパー
Conductor EXcellent 5
Orchestra VG 4
Seat location 4
Audience 4
Pablicity 4
21点/25満点中
81%/100

 

大友直人のエルガー1番(2024)

 

 

エルガー没後90周年の企画として注目の一番といえる大友直人指揮、東京交響楽団によるエルガー交響曲第1番の演奏。
聞けば大友が同曲を東響で演奏するのは26年ぶりとか。
もちろん、その26年の間には東響は大友の指揮により、あのオラトリオチクルスを行っているのであるから、その経験は今回の演奏にもしっかり根を張っていたことは間違いない。
安定した安心感。正にその言葉が一番相応しい。
日本でエルガーの作品の経験値が最も高い指揮者とオケによるエルガー。
終演後にマエストロを訪ねて楽屋を訪れた時に開口一番出てきた言葉がある。
「いやあ、今回実はエルガーの曲に練習時間が取れなかったんですよ。なにしろバルトークの協奏曲が大変で大変で」
この間、楽屋にはマエストロを訪ねて色々な人物が訪れてきたのだが、すべての人にそのことを訴えていた。
聞こえようによっては愚痴っぽくも聞こえなくもない。あの大友にしては珍しいなと思った。
「いやあ、もっとエルガーに練習時間を使いたかったんですよ」
と、まるで私に詫びるような感じで言ってきた。
これは客演指揮者である以上仕方ないのであるが、常任指揮者なら、ある程度時間が自由に使えるが客演だとそうはいかない。割とよくあることでもある。
ましてバルトークのピアノ協奏曲第2番。それにフセイン・セルメットを迎えての協奏曲。
おそらくこの曲はセルメットの要望による選曲なのだろう。これが難曲で、しかも演奏頻度が決して多いとはいえない曲目。
これに時間を大いに取られてしまってエルガー1番の練習時間が大きく削られてしまったそう。
なんと今回は一度も通すことができなかったとか。
普通ならこれほど心配なことはない。下手をするとボロボロになる。
しかし、そうはならなかった。
ここでよい対比になる事例を思い出してしまった。
同じように東京の某プロオケを指揮した某指揮者さん。あえて名前は出さないが、あまりの酷い演奏で私がかつてボロクソに酷評してやったことある、あのクソ演奏である。
あの時も同時に演奏された21世紀の現代作品の日本初演に力を注ぎ過ぎたために時間がなくなってしまったことは間違いないであろう演奏をやってくれた。
メインはエルガーの曲だったが、あれほど酷い演奏を聴いたことがない。わかる人には誰のことかすぐわかると思うけど。
しかし、今回の大友マエストロと東響は違った。
その違いはなにか?
ズバリと「経験値」と「愛の深さ」である。
なにしろ日本で一番エルガー作品の経験値が高い指揮者とオケによるエルガー演奏なのである。
かつて、エイドリアン・ボールトが言った言葉を思い出す。
「特になにもやらなくてもオーケストラに任せておけば大丈夫。何よりも作品がよくできているし、オーケストラは作品を誰よりも理解しているからね」
エルガーというキーワードで結ばれた深い絆が演奏を崩壊させることは決してなかった。
それがない、先の某指揮者と某オケは完全崩壊していたのであり、そんなのとは全くレベルが違うのである。あんなものと一緒にされたらたまったものではない。
日本の聴衆もそろそろ、その違いに気づけるようになってほしい。
大友のエルガーの構図の作り方は一貫している。フレーズを広めに取るスタイル。決してタイトではなく、オケの響き(テンポも)を十分に広げさせるやり方。強いていえばバルビローリとかトムソンに近いスタイル。そのためオケの各プレイヤーは各々の楽器のポテンシャルいっぱいに響かせることを意識することができる。
このやり方だとプレイヤーにある程度任せる形になるので、時と場合によっては抑制が効かなく恐れがある。しかし、マエストロはその点を十分わきまえており、左手でさりげなく制御してみせる。解放と抑制の絶妙なバランスである。マエストロ大友の指揮を見ていて、いつも感心するのがこの手綱捌きである。
この日はホールの埋まり具合が今一つだった(約6割か)のもあり、響きがなおさら充実して広がった感がある。一度も通しができなかったのに、あの完成度である。正に至福の時間であった。
ただ、気になる点も多少ある。
最近のオケのレベルアップは目を見張るものがあり、アマチュアからプロに至るまで満遍なく向上しているのが見て取れる。
その中でも日本のプロオケで頭一つ抜けているのがN響と東響だと思っていた。
都響、日フィル、読響あたりはそれより少し劣るなと感じていたのが正直なところ。
ところが、最近それらのオケのレベルアップも凄まじく、最近ではほぼ横一線に並んだ感がある。
そうすると、これまでの東響の優位性が少し薄らいでいる印象がある・・・というか、かつての勢いが感じられなくなっているのが心配だ。
昨今この楽団から優秀な奏者が他団体へと転出していくというニュースを見る度に寂しい思いがある。ジョナサン・ノットの契約切れというのも残念だ。あの人は将来とんでもない巨匠になる。
まだまだ、「エルガーの東響」「英国音楽の東響」として君臨し続けて欲しい。

 

大友直人のエルガー1番(2024)

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