「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表

愛の音楽家エドワード・エルガー

「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表

2022年11月音楽之友社から「英国音楽大全」が発刊された。
これは日本で最も早く最も詳しく英国音楽を紹介した三浦淳史先生が書き残した膨大な執筆を一冊の書籍にまとめた超大作となっている。
「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表
目次を見て改めて驚嘆。
確かにここまで英国音楽を日本に紹介してくれた人はいない(今でも)。
日本には全く存在しなかったこれだけの情報を持ってきた功績は本当に凄い。
三浦先生が亡くなった後でさえ、私がエルガーの書籍を書いた時、エルガーに関する資料を探し求めても日本語で書かれたものが本当になくて仕方なく英語の文献にあたるしかなくて苦労したことこの上なかった。
数少ない日本語の資料か三浦先生と藤野さんが書かれたものくらい。
本当にお二人の執筆したものが私の教科書だった。
まして三浦先生がこういった英国音楽をご紹介された頃はもっとさらに大変だったはず。
それを思うと涙が出そうになる。
三浦先生がいなければ今の自分はなかった。確実にそう思うし、今日の日本におけるエルガー受容史にも多大な影響があったであろうことは間違いない。
それほどこの書籍は重い。
この価値が理解できる人がどれほどいるかはわからないが、とにかく凄い出版物なのである。

 

 

しかし、やはり1970年代に書かれたものゆえに情報が古くて研究が進んだ現在では完全に誤りとなっているものや、
三浦先生ご自身の勘違いで誤情報となっている箇所が結構ある。
正直1970〜1980年代に書かれたものを「大全」に仕立て上げるにはいささかムリがある。
「英国音楽大全」ではなく「完全復刻!三浦淳史全集」とでも銘打ってあるば問題ないのであるが、
中には宗教に関わる重大なものもあるので、放っておけないレベルの問題もあるのだ。
再版なり電子化するのであればそれまでに訂正をしてくれるように出版社には伝えてあるが、実際問題それは難しいと思われる。
本来なら三浦先生の原文はそのままにしての註釈書きを入れるべき箇所であると思われる。
音楽之友社というクラシック音楽専門最高権威の出版社から出版され、しかも三浦淳史という英国音楽の最高権威の書いた本なら誰もが信用することであろう。
その書籍に間違いがあればたちどころに誤情報が拡散されてしまう。
ほとんどの評論家やライターはそういう出典元から孫引きをする。
それを見たアマチュアのブロガーやらオケの事務局がさらに孫引きしてさらに無限連鎖が始まってしまう。
そういう例を嫌というほど見てきた。
一度拡散されたガセネタが訂正されるまでには数十年とか100年レベルの時間がかかってしまう。
ウィルスみたいなものなで、これを少しでも食い止めたいと切に願いたい。

 

以下、気づいた誤認箇所を指摘させていただく。

 

1.P106下段7行目 「彼(エルガーの父)はウスターカテドラルのオルガニストで」という部分。
「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表
ウースター大聖堂は英国国教会の聖堂であり、エルガーの父ヘンリーはカトリック教徒である(厳密には彼は生涯洗礼を受けていなかったが)。
ヘンリーがオルガニストを務めていたのはウースターにある聖ジョージ・ローマン・カトリック教会。
なので小さなカトリック教会のオルガニトが英国国教会大聖堂のオルガンを演奏するということはあり得ない。
これ結構間違えられる問題だが、カトリックと英国国教会の過去にあった流血の歴史を考えると当事者にとっては洒落にならない問題といえる。
結構、ウィキペディアをはじめ日本でこの間違った記述を目にすることが多くその都度訂正をお願いして火消をしてきたが、どうも孫引きの出所は三浦先生の文章だったようだ。
ということは、この今回の書籍からまた孫引きの連鎖が始まる可能性があるのでなるべく早く火消ししなければならない。
が、おそらくこれまで以上に尻ぬぐいと火消の作業が大変になるだろうなと覚悟している。
念のためウースター大聖堂の歴代オルガニスト名のリストを添付するが当然ウイリアム・ヘンリー・エルガーの名前はない。
「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表

 

 

2.P306下段の11行目「初演の指揮者リヒターの忠告によって、現在の大規模で効果的なフィナーレに改訂された」という部分。
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改訂を忠告したのはハンス・リヒターではなくアウグスト・イエーガーである。
例えばMichael Kennedy著の「The Life of Elgar」の69ページを始め多くの原語の文献にはイエーガーによる助言が言及されている。
「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表
事実関係を時系列でまとめるとこうなる。
まず
エニグマの初演はリヒターの指揮により大成功に終わる→イエーガー(ノヴェロ社の編集者=第9変奏ニムロドのモデル)がエルガーにフィナーレの終わり方が唐突すぎるからもっと長くした方がよいと助言→一度はエルガーはこの提案を拒絶→リヒターもイエーガーの意見に賛同→結果、エルガーは現行のフィナーレを追加した。
なのでリヒターも無関係ではないが、あくまで言い出しっぺはイエーガー。このころのイエーガーはエルガーの創作活動にもかなりアドバイザーとして深く介入しておりエルガーも彼の意見を重要視していた。
エニグマ変奏曲、海の絵、ゲロンティアスの夢あたりはイエーガーの意見が相当取り入れられているはず。

 

 

3.P316 上段本文3行目 「1907年「ヴァイオリンの王者」とうたわれたフリッツ・クライスラーから作曲の委嘱を受けた」という部分。
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大筋では間違ってはいないが、正式な委嘱は1909年にフィルハーモニー協会によるものなので、この部分が抜けてしまっているのは不自然。
「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表

 

 

4.P316 下段本文8行目 「エニグマの登場人物の一人である友人のフランク・シュスターに」という部分。
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シュースターはエルガーのパトロンであり彼の家The Hutにはエルガー専用の部屋があるなど多くの友人が集まっていた。
エルガーにとっては極めて影響力のある友人である。
しかし、エニグマ変奏曲でシュースターは描かれていない。
「英国音楽大全」エルガーの項 正誤表

 

 

 

その他、いくつか疑問に感じる点があり確認している箇所があるがまだ調査中。
主に1970年ころに発刊されていた資料で三浦先生が参照したソースはどれなのか特定しながら該当資料をあたっている。

 

可能であればエルガーの個所だけでも事前に私に校正させてもらいたかったと思う。
以前にEMIでエルガー全集をリリースする時に監修をやらさせてもらった時に曲目解説を何人かの評論家の先生に分担して書いてもらったところ
返ってきた原稿に結構古い情報のままアップデートされていないものも多々あったので、添削する羽目になったことがある。
評論家や音楽学者といっても分野は広すぎるので自分の専門ではない分野のことには必ずしも精通しているわけではないということを痛感したものだった。

 

 

残念ながら今回の一冊はお勧めとするわけにはいかない。けっこうここまで苦労してきた修正作業がまた一旦リセットされてしまう事態になるかと思うといささかウンザリなのが正直なところ。

 

 

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