再びロンドンへ

秘曲に宿る円卓の精神 ― ポール・イングラム指揮《アーサー王》組曲

エルガーの劇付随音楽《アーサー王》(Arthur, Op.56)は、1923年に作曲された晩年の作品である。劇作家ローレンス・ビニョンによる悲劇『Arthur』のために書かれた音楽であり、エルガー特有の晩年様式――すなわち、陰影の深い和声、抑制された情熱、そして滅びの美学が色濃く刻まれている。後に交響曲第3番の素材として再生されることになるこの音楽には、もはや帝国の栄光を謳い上げる若き日のエルガーの姿はなく、むしろ「崩壊を美として描く」晩年の内省が支配している。

 

この作品を取り上げる演奏は極めて稀であり、商業録音もわずか二種を数えるのみである。しかし、2013年にウッドストック・ミュージック・ソサイエティを指揮したポール・イングラムによるR. H. KAY編曲版の演奏は、こうした“秘曲”に生命を吹き込む、実に愛情深い再現となっている。

 

「King Arthur and Sir Lancelot」では、ブラスが勇壮に鳴り響きながらも、誇張に走らず、むしろ“老練な騎士道”を思わせる端正さを保っている。第2曲「Elaine」では、弦の透明な歌い回しがエルガー後期のリリシズムをよく捉えており、まるで《セヴァーン組曲》の哀愁が滲むかのようである。

 

「Banqueting Scene」では、軽やかなリズムと和声の翳りが交錯し、晩餐の華やかさの裏に忍ぶ不穏な空気を巧みに描き出す。続く「The Castle at Night」は、まさにこの組曲の白眉である。弦楽群の静謐な広がりと、木管の孤独な旋律が溶け合い、まるで《ファルスタッフ》終結部の夢幻的回想を思わせる詩情を湛えている。

 

「Battle Scene」では、アマチュア・オーケストラながら、リズムの推進力と金管の熱気が見事であり、イングラムの統率の確かさを感じさせる。終曲「The Death of Arthur」に至ると、テンポを抑えつつも、全体を包む荘厳な静けさが印象的で、音楽は次第に「諦念」と「祈り」へと昇華していく。

 

この演奏には、プロフェッショナルの完璧さはない。しかし、それ以上に「エルガーを愛する者による献身的な再生」という感動がある。イングラムとウッドストック・ミュージック・ソサイエティは、単に作品を“再現”したのではなく、エルガーの晩年の精神――すなわち“勇気、哀惜、そして信仰”を“共有”しているのである。

 

結果として、この演奏は“秘曲”という言葉を超え、エルガー芸術の核心を静かに照らし出す、心打つ記録となっている。

 

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