《威風堂々》第6番
2006年のBBCプロムスにおいて、エルガーの未完に終わった行進曲集《威風堂々》第6番の補筆完成版が初演された。補完を担当したのは、《交響曲第3番》の補完で広く知られるアンソニー・ペインである。これによりペインは、エルガー作品の補筆を二つ手がけたことになり、その名はエルガー受容史に永く刻まれることになっただろう。なお、ペインはこのほかにも、エルガー作品の編曲を二曲行っている。
補完の成果としては、総じて「まずまずの出来」と評価するのが妥当であろう。冒頭から、《威風堂々》第2番に聴かれる金管の音形を思わせる書法が現れ、「カラクタクス」「スターライト・エクスプレス」「フリンジズ・オブ・ザ・フリート」、さらには《5つのピアノ即興曲》の一節を想起させる旋律断片が随所に顔を出す。また、《威風堂々》第1番や《交響曲第3番》でエルガーが好んで用いた、弦楽器による上昇音形も頻繁に登場する。
さらに全体を通してみると、その大部分がペインの創作とされる《交響曲第3番》第4楽章後半との類似も感じられ、打楽器群のアクセントの付け方などは、まさに《第3番》的と呼びたくなるほどである。主要主題においては、《帝国のページェント》終曲「連合の歌」が引用されている。この旋律は録音も少なく、一般にはあまり知られていないが、1924年作曲の《帝国行進曲》にも引用されている重要な素材である。
こうした点を挙げれば、「またしても安易な引用に頼ったのか。所詮ペインの力量はこの程度だ」といった批判を向けることも、いくらでも可能であろう。確かに、多くのエルガー作品の影を感じさせる音形や、過去作からの引用は、一見すると安直にも映る。しかし、仮に作曲者本人であるエルガーが筆を執っていたなら、むしろもっと自由闊達な書法を選んだかもしれないし、あるいは全く異なる作風に至った可能性も否定できない。
だが、それを他人が行えば、たちまち「これはエルガーではない」と断じられるのが関の山である。ここにこそ、補完という行為の本質的な困難さがある。補完者は、自由を奪われた状態での作曲を強いられるのである。
その意味において、ここまで徹底してエルガー・テイストを醸成することに成功したペインの手腕には、率直に拍手を送りたい。ある意味では、エルガー本人以上に「エルガーらしい」音楽と言える瞬間すらある。
スコアはブージー&ホークス社から出版され、リチャード・ヒコックスの指揮により録音が行われた。日本においても、尾高忠明指揮/札幌交響楽団による録音がリリースされ、また大友直人指揮/東京交響楽団によって日本初演が実現している。
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アンソニー・ペインによるエルガー補完作品
1.交響曲第3番(1934-1997)
2.So Many True Princesses Who Have Gone(1932-2002).
3.Queen Alexandra's Memorial Ode, for chorus & orch(1932-2002)
4.行進曲「威風堂々」第6番(1934-2006)
5.インドの王冠全曲(1912-2007)
2010年に英国王立音楽大学 (RCM) で発見された廃棄された楽譜の山から「最後の審判」のスケッチが大量に発見され、ペインは、この誰も日の目を見るとは思っていなかったエルガーのオラトリオ『最後の審判』を制作することに同意していた。当初世界初演は2017年春に予定されていたのであるが、作業は思うように進まずペインが2021年に没してしまったことによってペンディングとなってしまった。


