ドイツに響いたイギリスの魂!《ゲロンティアスの夢》ケルン 2025年ライブ
エルガー《ゲロンティアスの夢》ケルンWDR交響楽団 2025年ライブ レビューEdward Elgar: The Dream of Gerontius, op.38Cristian Măcelaru 指揮 / ケルンWDR交響楽団・合唱団 / ベルリン放送合唱団
🗣 ソリスト:
John Findon(ゲロンティアス/テノール)
Jamie Barton(天使/メゾソプラノ)
Derek Welton(司祭・苦悶の天使/バスバリトン)
🎧 総評:ドイツに響いたイギリスの魂
ドイツでは依然として稀なエルガーの宗教的大作《ゲロンティアスの夢》が、ケルンでこれほど精緻かつ情熱的に演奏されたこと自体が、まず驚嘆に値する出来事だった。メッサーリュが指揮するWDR交響楽団と二つの合唱団(WDR& ベルリン放送合唱団)は、壮麗でいて奥行きのあるこの作品の本質を、見事に異国の舞台で具現化した。
🎻 オーケストラ & 指揮
クリスティアン・メッサーリュは、フランス音楽に通じた透明感のある音響処理で知られるが、ここでもエルガー特有の豊穣なオーケストラの響きにくすみを与えず、瑞々しさを保ちながら構造感を損なわない見事なバランスを提示。特に第2部後半、魂が神の光へと向かう場面では、壮麗ながらもやや速めで軽さを重視した浮遊感のあるテンポ設計が秀逸だった。
WDR交響楽団は、ドイツの重厚なサウンドと、エルガー的なノスタルジーの融合を成し遂げており、内声部の語り口、弦のしなやかさ、ブラスの輝きと抑制が一体化した響きは、まさに現代的なエルガー演奏の理想形の一つといえる。
🎵 合唱
WDR放送合唱団とベルリン放送合唱団のコンビネーションは実に壮麗かつ明晰。特に**「Sanctus fortis」**では、カトリックの宗教的緊張感を十全に表現しつつ、エルガーらしい繊細なディナーミクの対比を見事に描いていた。
天使の合唱(Demon's Chorus)における「低音の不穏さ」や、天上界の「Blessèd spirits」に漂う透明感など、場面ごとの音色の切り替えが極めて効果的。
👤 ソリスト
John Findonは、苦悩する魂としてのゲロンティアスを劇的に、しかし誇張なく演じた。声の張りは十分で、特に「Take me away」では内面の崩壊と希望が交錯する様が強く胸に迫った。
Jamie Bartonはまさに現代を代表する天使役。どっしりとした音響と母性を帯びた柔らかな表現、英語ディクションの明晰さと音楽性が両立した至芸。
Derek Weltonはドイツ系歌手らしい存在感で、神秘と威厳を兼ね備えた司祭像を提示。加えて**「Demon's Chorus」での陰影ある声の使い分け**も見事。
この演奏は単なる「エルガーの紹介」に留まらず、エルガーの宗教的世界観を真に再現した国際的成果といえる内容だった。
とりわけ、音響的な統合感、精神的な深み、そして英語圏外の演奏としての成熟度の高さは、録音・配信メディアでもぜひ後世に残したいレベル。